「わかっているのか。あの者は血筋や立場など顧みぬ。王族であろうと、容赦なく切り捨てる。玉蓮。赫燕(かくえん)将軍の元に身を置くということは、その闇に触れるということだ。軍に属する者として、上官に斬られても——たとえ何をされても、決して文句は言えぬ。それほどの覚悟がいる」

「承知しております」

脳裏に浮かぶのは、血のように赤い婚礼衣装を纏い、微笑んでいた姉の最期の姿だけ。懐に忍ばせている木製の鳥が、まるで熱を持っているようで胸が痛い。

「それでも、わたくしは……その力が欲しいのです」

そう俯きながら告げると、隣にいる劉永の握りしめられて、白くなっていく拳が視界に入った。

「永兄様……」

彼の手から視線をあげれば、こちらを静かに見つめる瞳と目があった。彼の瞳に見つめられ、いくつもの日々が脳裏に蘇る。

先生に息子だと紹介された、あの日のこと。ともに月明かりの下で剣を振り、書を学んだ夜のこと。そして、痣だらけになった手を、いつも握ってくれていた、あの温もりのこと。

目の前で、あの頃と変わらない美しい瞳がただ真っ直ぐに自分を映し出す。そのあまりに純粋な眼差しに、胸の奥が、きりりと痛んだ。そして——

「玉蓮」

いつの間にか低くなった声が、昔と変わらず玉蓮を優しく呼ぶ。

その声に導かれるように、玉蓮は三人に向き直り、両手を静かに床についた。木の温もりが、手のひらにじんわりと伝わる。