闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

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◇◇◇ 玉蓮 ◇◇◇

 玉蓮が崔瑾(さいきん)に嫁いでから、一年と半分の歳月が流れていた。

 正しく、玄済(げんさい)国の将軍・大都督(だいととく)の妻として、玉蓮が過ごす静かな日々。夫となった崔瑾(さいきん)は、どこまでも誠実で優しい。庭に差す柔らかな光のように、崔瑾の言葉は、玉蓮の中に静かに降り積もっていく。

 碁を打ち、庭を歩き、季節の移ろいと共に花を愛でる。些細なことでも袖が触れれば、崔瑾はすぐに温かい手を差し伸べてくれる。玉蓮が美しいと口にした花々は、次の日には次々と庭に運ばれる。彼の言葉も、彼の行動も、その全てが真綿のように、玉蓮を包み込んでいった。


 夜、夫婦として肌を重ねた後、隣で眠る崔瑾(さいきん)の穏やかな寝顔を見つめる。崔瑾の腕は常に慈しみに満ち、玉蓮の背を優しく抱き締める。それは、赫燕(かくえん)と交わした魂を焼き尽くすような激しい交わりとは異なる、静かで、確かな温もり。

 このまま、この温もりに満たされて眠りに落ちてしまえば、どれほど幸せだろうか。この人の腕だけを求めることができたなら、どれほどに——。

 玉蓮は、そっと彼の腕から抜け出すと、衣を纏い、月明かりが差し込む窓辺に立った。桃の木の葉が、風に揺られて、さわさわと音を立てている。