闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 翠花(スイファ)が、不安げな表情で玉蓮に詰め寄ったが、玉蓮は涼しい顔で翠花(スイファ)を見つめ、不敵な笑みを浮かべた。

翠花(スイファ)、その(かんざし)が口止め料よ」

 玉蓮は、先ほど店で購入したばかりの、息をのむほど美しい翡翠(ひすい)の簪を指し示した。その滑らかな曲線、精巧(せいこう)な彫刻、そして深みのある緑色の輝きは、まるで生きた宝石のよう。

「え! くださるのですか!」

 翠花(スイファ)の顔に、驚きと喜びが同時に花開いた。彼女の大きな瞳がきらきらと輝く。こんなにも見事な細工が施された逸品は、めったにお目にかかれるものではない。

「黙っていてくれるわよね?」

「はい! 翠花(スイファ)は誰にも言いません! 誓って、誰にも!」

 簪を両手で大切に抱えながら力強く頷く翠花(スイファ)と、その隣でしてやったりの顔をして笑う玉蓮に、阿扇は、思わず頭を左右に振る。

「稽古は良いですが、私は手加減などしませんよ」

「わたくし相手に手加減なんて、それこそ怪我をするわよ、阿扇(あせん)将軍」

「たとえ相手が玉蓮様であろうと、戦場では容赦なく攻め立てるのが私の流儀です」

「あなたこそ、わたくしの剣の(さび)とならないよう、せいぜい気を付けることね」

 玉蓮は挑戦的な笑みを浮かべ、阿扇の目をまっすぐに見返した。その瞳には、豪華な衣装を纏った姿からは想像もできないほどの、鋭い光が宿っている。阿扇(あせん)は、今度こそ我慢できずに大きな声で笑い声を上げてしまった。