闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 しばらく歩いたところで、玉蓮と翠花(スイファ)がどちらからともなく笑いだした。翠花(スイファ)は目を輝かせ、玉蓮を見上げる。

「奥様、本当に格好良かったです!」

「私は、やりすぎだと思います。あのような下賎(げせん)な会話など、捨ておけば良いものを」

 阿扇(あせん)が呆れを隠さずにそう伝えると、玉蓮が首だけで振り返り、悪戯に笑う。薄紫の衣がきらりと光りを放つように(ひるがえ)る。

「旦那様が側室を娶らぬ意味もわからぬというのに。あの程度のことで怯えるような令嬢たちが、崔家に嫁ごうなどと笑止千万」

 人差し指を立てて、どこか得意げに言い放つ玉蓮の堂々とした態度に、阿扇(あせん)は思わず頭を抱える。

「大人気ないですよ。もっと穏便に済ませるべきでした」

「あら。きっと、わたくしと年齢はそう変わらないはずだわ」

「だからと言って、あそこまで挑発に乗る必要はなかったかと。奥様の品位を疑う者も出てくるかもしれません」

 阿扇(あせん)は、なおも諭そうとするが、玉蓮は首を横に振る。

「言わせておけばいいなどと思わない。ああいった中傷は、真っ向からねじ伏せるの。大いなる皮肉でね。そうでなければ、こちらの立場が(ないがし)ろにされるだけ。わたくしは妻として、崔家の名誉を守る義務があるわ」

 翠花(スイファ)は再び感嘆の声を上げ、阿扇(あせん)はため息をついて肩をすくめる。

翠花(スイファ)は、気分爽快です!」

「そうでしょう?」

「それも後宮で教わったのですか?」

「いいえ、獣の巣で教わったのよ」

 その、あまりにも楽しげな、悪びれもしない笑顔。