闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 一瞬の隙。その背後で、敵兵の槍の穂先が煌めく。反射的に首を捻って(かわ)し、剣を横薙ぎに(ひらめ)かせる。敵兵の右腕が肘から先を失って宙を舞い、鮮血が空に散った。

 だが、視線を前に戻した時には、進路はすでに潰されていた。重装の四騎が朱飛を囲む。四方から槍と剣の穂先が殺到した。

(まずい、囲まれる——!)

すでに一人の剣が、朱飛の頭を打ち砕こうと、凄まじい速度で上段から振り下ろされようとしていた。

「くっ!」

 朱飛が剣を受け止めようと構えた、まさにその時——



——ダン! ダン! ダン! ダァンッ!!



 風を切り裂く鋭い音と共に、朱飛を囲んでいた四人の兵士の胸元、顔面、そして首に、次々と矢が突き刺さった。その威力は凄まじく、重装甲の上から深々と肉に食い込み、四人は糸が切れた人形のように馬から転がり落ちる。

「刹!」

 朱飛の視線が、矢の大元へ飛ぶ。そこには——口から大量の血を溢し、呼吸さえままならないはずの刹がいた。落馬寸前の体勢で、弓を構えたまま、最期の力を振り絞って朱飛に笑いかけている。その胸には、無数の矢に加え、銀色の刃が深々と突き刺さっていた。

「貸しだぞ……」

 確かに、刹の唇はそう動いた。音のない言葉を残し、刹の手から弓が滑り落ちる。そして、刹はずるりと馬から崩れ落ちた。

「牙門、刹……!」

 朱飛は奥歯が砕けるほど噛み締め、大きく目を見開く。涙で視界を曇らせるわけにはいかない。二人の最期を、その目に焼き付けるために。さらに前に進むために。


 その直後、すぐ隣の戦場で双刀を振るう(じん)の姿が目に入った。彼の体はすでに無数の傷で覆われている。左肩からは鮮血が噴き出し、ひび割れた右の籠手(こて)も赤く染まりきっている。動きが鈍ったその一瞬、敵兵の刃が迫る。

 ——ガキンッ!

 振り下ろされる刃を、朱飛が寸前で受け止めた。

「おい、迅! 何してる!」

 迅の視線の先を見れば、少し離れた場所で、軍師であるはずの子睿(しえい)がいた。落馬したのか、地を這いながらも、自ら剣を抜き、奮戦している。だが、その体はすでに数カ所を深く斬られ、顔は白く、唇からは血の泡がこぼれている。

「ったく、あの馬鹿軍師! おい朱飛、手を貸せ」

「おう」

 二人同時に馬を駆った。風が髪をなびかせ、土埃が舞い上がる。二人は阿吽の呼吸で、敵兵を蹴散らして子睿の元へ切り込む。

「子睿! 何やってる!」

「見ての通りですよ。最後の、思考実験です」

 血を流しながらも、子睿は、いつもの皮肉な笑みを浮かべていた。

「馬鹿言ってんじゃねえ! 乗れ!」

 迅は叫ぶと同時に馬を寄せ、子睿の襟首を掴んで強引に自らの馬の背後へ引きずり上げた。