闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 視線の先で、牙門が、巨大な獣のように()えている。

「うおおおおおっ! 道を開けやがれぇ、雑魚どもがァ!」

 丸太ほどもある巨大な(ほこ)を振り回しながら突き進み、その一撃は、玄済(げんさい)兵の盾を、鎧を、そして骨ごと砕いていく。

「お頭の邪魔をすんじゃねえ! 俺たちの王の道だ!」

 彼の周りには、瞬く間に、血と肉片の山が築かれていく。だが、その獣の前に、山のような巨躯(きょく)が立ちはだかった。

「……貴殿の武勇、見事。だが、ここまでだ。馬斗琉(ばとる)、参る!」

「うるせえ! でくの坊が!」

 二つの巨体が、激しく激突する。

——ゴォォォオオン!

 凄まじい金属音と衝撃波が、周囲の空気を震わせる。

(あれは、手練れだ——!)

 だが、助けに行く余裕もこちらにはない。怒号と、鼓膜を劈くような硬質の衝撃音が続く。いくら牙門が剛の者といっても、相手の体躯はさらに二回りほど大きい。

「——ここだ!」

 牙門の咆哮(ほうこう)が轟く。

(捉えたか! 牙門!!)

 朱飛が敵を斬り伏せながら視線を向けた、その瞬間——。牙門の大矛が相手の甲冑を叩き割るのと同時、その脇腹を、敵の猛烈な一撃が深く抉っていた。信じられないほどの量の血が、堰を切ったように噴き出す。

「がっ……!」

 牙門の動きが止まる。朱飛の喉からは、ヒュ、と空気が潰れたような音が漏れた。

「牙門!!」

 牙門が、血に濡れた目で、こちらを——いや、朱飛の後ろにいる、主の姿を見つめていた。

「……お頭ァ」

 その唇の動きだけが、やけに鮮明に朱飛の目に焼きついた。巨体が、ゆっくりと、大地へと崩れ落ちていく。

「牙門ッ! てめえら……よくも……!」

 朱飛から少し離れた場所で、魂を削るような絶叫が響き渡った。(せつ)だ。

「刹、よせッ!」

 朱飛は本能的に叫んだ。だが、それは届かない。

 刹は、憎悪に満ちた鬼のような形相で、愛用の大弓を、軋むほどに引き絞る。大男めがけて飛んで行った矢が、寸前で空しく盾に弾かれる。次の瞬間、敵の陣形から、一斉に放たれた無数の矢が、刹の細い体に吸い込まれるように、次々と突き刺さった。

 視界の端で、馬の首に縋りつくようにして、その体がゆっくりと、抗うこともできずに(かし)いでいく。朱飛の全身から血の気が引く。

「クソッ!」

 朱飛の中で何かが弾け飛ぶ。敵の槍を乱暴に払いのけ、強引に刹の元へ馬首を向けた。