闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 玉蓮は、その様子を見下ろしていたが、やがて、わずかに柔らかくなった声で「立ちなさい」と告げる。

 まるで舞を踊るかのように、玉蓮は優雅に手を動かし、美しい弧を描くと、令嬢たちの細い腕を取り、その場に立たせた。令嬢たちは、恐る恐る立ち上がるも、玉蓮の瞳に視線を合わせぬように、目線は下げたまま。

「お、恐れ入ります、崔夫人」

 か細い声で呟く令嬢たちに、玉蓮は、ふっと薄い笑みを浮かべる。

「高官のご令嬢方が挨拶もできぬなど、あってはならぬことですからね。気をつけるように」

 令嬢たちは、ただ「はい……」と力なく答えることしかできなかったが、彼女たちの顔には、悔しさよりも安堵の色が浮かんでいる。これでようやく、この恐ろしい時間が終わるのだとでも言いたげに。


 怯えた様子の令嬢たちの前で、玉蓮はゆっくりと寸分の乱れもなく身を(ひるがえ)した。そして、彼女は令嬢たちに背を向けたまま、顔だけを少し横に向け、静かに立ち止まる。

「皆様のように声高(こわだか)に訴えずとも、地位も礼も、然るべきところに収まるものですわ」

 声はあくまで軽やかに、立ち居振る舞いは優雅を極め、その纏う態度は微塵も崩れぬ威厳を保つ。

「では」

 短い別れの一言とともに、玉蓮は、(さい)()正室としての自らの格と、その地位に求められる品位を完璧に体現しながら、その場を去っていく。その、威風堂々たる背中を、阿扇(あせん)は一歩も遅れず、そして一言も発さずに追いかけた。