闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 しかし、その言葉は、ふと挙げられた手によって遮られた。

「そういえば——ご挨拶がまだでしたわね」

 阿扇(あせん)は、思わず両目を手で押さえるように顔を背けた。玉蓮は、再び冷たい瞳を令嬢たちに向けている。

「挨拶ですって?」

 礼を拒否する令嬢たちに、玉蓮は一切怯まず、ただその場に立っていた。玄済(げんさい)国においては、格下の者が格上の者に挨拶するのが礼儀だからだ。大都督(だいととく)の上に立つのは、国王か、非常置の丞相(じょうしょう)のみ。

 大都督(だいととく)である崔瑾(さいきん)の正妻、かつ白楊(はくよう)国・公主である玉蓮の家格に勝る者は、この場には存在しない。玉蓮の背筋は真っすぐに伸び、一点の揺るぎもない。

 周囲の令嬢たちは、その威厳に満ちた姿に気圧され、徐々に表情をこわばらせていく。彼女たちの軽薄な笑いは消え失せていた。

「わたくしは大都督(だいととく)崔瑾(さいきん)様の正室。わたくしに礼を取らぬのであれば、(さい)家を侮辱するも同然です」

 冷気を帯びた声が響き渡る。戦場に出ていた将にすれば、ぬくぬくと育った令嬢など敵にもならない。玉蓮の眼差しは、鋭い刃物のように令嬢たちを射抜いている。

 男でさえも息を詰めるほどの玉蓮の覇気に、令嬢たちはガタガタと身体を震わせる。顔は青ざめ、口元は引きつり、まるで凍りついたかのように言葉を発することができない。膝頭は震え、互いに顔を見合わせるが、誰もが助けを求めるような眼差しをしていた。

「どうされますか」

 怯えた令嬢たちは、その言葉を合図に、競うようにして立ち上がり、慌ただしく膝をついた。そして、恭しく手を合わせ、額にその手をつけながら、震える声で自身の名を告げていった。一人、また一人と。絹が擦れる音が響く。