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十六歳になり、私塾を卒業する日、数多(あまた)の将軍の中から、玉蓮は迷いなくその名を口にした。


「——赫燕(かくえん)将軍の元へ」


茶を淹れていた劉義の手がぴたりと止まり、熱い茶が碗の縁からあふれ、卓に丸い染みを作っていく。時間が止まったかのように、劉義も、劉永も、そして温泰(おんたい)も、全員が目を見開いていた。

やがて、劉義は茶器を傍らに置くと、ゆっくりと顔を上げた。その瞳と視線がぶつかった瞬間、喉がきゅうと狭くなる。

「玉蓮。私は、あの者の元へと行かせるために、お前を育てたのではないぞ」

一瞬、ぐらりと体が揺れそうになり、どうにか両手に力を込めて体を支えた。

「先生」

「そのために、公主であるお前が王宮を離れるという、特別なお許しを大王にいただいたのではない」

玉蓮を産むと同時に死んだ宮女の母、そして唯一の家族だった姉。

その姉さえも失った六歳の彼女に血を注ぎ込むようにして、知略も武勇も鍛えてくれた恩師の声が、ひどく掠れている。だが、玉蓮は、ただ真っ直ぐに彼の目を見つめ返した。

「先生、どうか、お願いいたします。赫燕(かくえん)将軍の配下に」

己の鼓膜に響いた声は、自分が思っていたよりもずっと力強い。