闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇

 自らの粗末な部屋に戻り、最低限の荷物をまとめる。そして、懐から玉蓮は一つの古い布の包みを取り出した。中には木製の鳥。あの日、姉の死の報せを聞いた時に、握り潰してしまったその片翼には、痛々しいひびが入ったまま。それを指でそっとなぞる。

「姉上、行ってまいります」

 その声は、冷たい部屋の空気に吸い込まれていった。彼女はその鳥を再び布に包み、懐の最も深い場所へとしまい込んだ。


 馬車が白楊(はくよう)国・王都、雛許(すうきょ)の城門の前に着くと、そこにはまるで祭りのように人だかりができていた。

 どこから聞きつけたのか、都の民たちが今や遅しと集まっているようだ。その様子を見た玉蓮は、小さく、そして深くため息をつく。民たちのひそやかな囁き声が、馬車の壁を通り抜けて、はっきりと耳に届いてくる。

「おい、あれが噂の『白楊(はくよう)の華』か?」

「ああ。英雄すら焼き尽くす魔性の姫君だとか」

 民たちの囁き声。酒と垢の混じったような粘着質な視線が、馬車の薄い壁越しに突き刺さってくる。桃の花の唇、雪の肌、濡れ羽色の髪——。誰が見たわけでもなかろうに、都の噂とは、いつも無責任で饒舌(じょうぜつ)だ。玉蓮は、それらの声を(はえ)の羽音でも聞くように聞き流し、小さくため息をついた。

「一度は拝みてえな!」

 次々と声が上がる。

「あんたたち、知らないのかい。あのお姫様がなんて(うた)われているのか。英雄も焼き尽くしちまうんだよ」

 一人の老女の声が響いた。その言葉に、周りのざわめきが一瞬、静まる。

「ああ、あれだろ——ええっと」

 その時、どこからともなく、詩歌(うた)が聞こえてきた。