闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 崔瑾は一瞬、そこに何があるのかわからなかった。目の前に広がっていたのは、ぬらぬらと不気味な光沢を放つ、髑髏(どくろ)台。白ではない、真紅に染まった頭が積み上げられている。

(——やはり、そうか)

 そして、その惨状とは不釣り合いなほどに、美しい紅い絹の衣が、まるでそこだけが聖域であるかのように美しくたたまれている。血の匂いが充満するこの空間で、その衣だけがぽっかりと輝くように。その上には、一輪の美しい白菊と、一通の文。

(やはり、お前は、玉蓮殿を奪い返すというのか——)

 崔瑾の手は微かに震えていた。文に手を伸ばし開くと、あまりにも流麗な文字が目に飛び込んできた。

『与霜牙之地民偕、我等亦散為血華
霜牙(そうが)の大地と民、その全てと共に、『我ら』も血の華となって散ってやろう)』

 それを読んだ瞬間、崔瑾の全身を悪寒が貫いた。知略で、戦術で、自分は完全に勝利していたはずだった。だが、違った。あの男は、最初からこの盤の上では戦っていなかったのだ。あの男は、盤そのものを叩き壊し、全く別の地獄の盤をこの地に作り出したのだ。

(そして、彼女を——)

「崔瑾様!」

 別の伝令が、血相を変えて駆け込んでくる。

「赫燕が残した髑髏(どくろ)台の書付、西市の掲示板にも同じものが張り出されたと! それを見た民が、我先にと逃げ出しております! 祭祀(さいし)の人だかりも相まって、このままでは、都の西一帯が大混乱に陥ります!」

「——っ」

 崔瑾は、天を仰いだ。

(——やられた!)

 赫燕は、この崔瑾軍を攻めているのではない。この国の民の、その恐怖心そのものを、攻めているのだ。

「……馬斗琉」

「はっ」

「やむを得ん。手勢の半分を(しょう)将軍に預ける。西郊(せいこう)駅亭(えきてい)を拠点とし、民の鎮撫(ちんぶ)にあたらせよ」

「し、しかし、崔瑾様! 我らの、ここにいる手勢は五千もおりませぬ」

「良い! 向かわせよ!」