闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 玉蓮も傷ついてるだろうと阿扇(あせん)は気まずくなりながらも、視線を動かしたが、飛び込んできたのは、予想もしなかったもの。目の前の玉蓮は、悪意に満ちた言葉の応酬をまるで楽しんでいるかのように、ゆっくりと、確かに、その唇の端を釣り上げたのだ。

 阿扇(あせん)は、息を呑んだ。それは、崔瑾(さいきん)の前で見せる、あの、はにかんだような笑みではない。戦場で兵士が見たと騒いでいた、あの、全てを支配する者の、(くら)い笑み。

「え! 奥様!」

 翠花(スイファ)の驚きと焦りが入り混じった声が聞こえたかと思うと、当の玉蓮は迷いなく、令嬢たちの声がする方に向けて足を一歩踏み出した。

「ぎょ、玉蓮様!」

 阿扇(あせん)も思わず、玉蓮の名を叫んで呼び止めたが、その声は、玉蓮の耳には届いていない。彼女はどこか楽しげに、舞うように足早に進んでいく。阿扇の手に冷たい汗が滲む。次の瞬間、玉蓮は令嬢たちの前に立っていた。

「お待ちを——」

「ご令嬢の皆様、ごきげんよう。とても楽しげなお話ですわね」

 令嬢たちの顔から一瞬にして笑顔が消え失せ、驚きと戸惑いの表情が浮かんだ。まるでこの世のものではないモノを見ているかのように、目が見開かれている。