闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 そんな玉蓮に対する心ない囁きが、阿扇(あせん)の耳を塞ぐ。玉蓮に視線を向けても、ただ白く美しい顔がそこにあるだけ。でも、どこか微笑んでいるようにも見えるそれに、阿扇(あせん)は背筋がぞくりと震えた。

「崔家と対抗する大臣たちの中にも、いまだ公主様を得ようと(はかりごと)を巡らせる者もいるのですって」

「朝廷に争いを巻き起こすなんて、まさに月貌華(げつぼうか)。その美貌で、男たちを惑わし、国を傾ける気なのかしら。この国の平穏を乱す存在でしかありませんわ」

「まごうことなき妖婦(ようふ)ですわね。きっと、あの瞳で男たちを(たら)し込み、意のままに操るのでしょう。我が国の未来を危うくする前に、早く追放すべきです」

崔瑾(さいきん)様もお早く、家柄の良い側室を娶られればよろしいのに。そうすれば、あの公主も、これ以上、崔瑾(さいきん)様の隣に立つことはできなくなるでしょう。崔瑾(さいきん)様に嫁ぎたい令嬢など、星の数ほどいるのですから」

 公の場では表立って口にしないものの、こうして人目を忍んだ場所では、その本性が露わになる。玉蓮が崔瑾(さいきん)の隣に立つことの不釣り合いさ、そして自分たちこそがその地位に相応しいという傲慢なまでの自負。その言葉の刃は、阿扇(あせん)自身の心にも鋭く突き刺さる。

 翠花(スイファ)が悔しげに顔を歪めて、動き出そうとするから、阿扇(あせん)は腕を取って止めた。

翠花(スイファ)

 こちらに向けられた視線に、首を振れば、小さく「許せません」と呟く。