闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

翠花(スイファ)、こちらの(かんざし)を」

「承知いたしました、奥様」

 跳ねるようにして、翠花(スイファ)が店主の元に駆けていく。

「そうね、確かに違うわ。後宮では包子(パオズ)一つ手に入れるのも死に物狂いでしたから。旦那様に感謝しなければ」

「……は?」

 玉蓮の言葉に、阿扇(あせん)は、思わず勢いよく顔をそちらに向けた。彼の知る公主とは、豪華な衣装を身につけ、山海の珍味を味わい、何不自由なく暮らす存在だったからだ。玉蓮の顔には、柔らかな微笑みが浮かぶだけ。

(ぎょく)はもちろんのこと、衣も(かんざし)も……全て縁ないもの」

 玉蓮は、淡々とそう付け加えた。その声には何の感情も込められておらず、まるで当然のことのように聞こえた。

 阿扇(あせん)は、玉蓮の纏う上質な衣や髪に挿された簡素ながらも美しい(かんざし)に目を向けた。それらは、彼女が「縁ないもの」と語るにはあまりにも自然に玉蓮に馴染んでいる。

 玉蓮は紛れもなく《《美しい》》。この広い天下に美女はいるといえど、これほどの美しさはまさに類稀なるものだ。透き通るような白い肌、夜空の星を閉じ込めたような瞳、そして桃の花びらのような唇。その全てが、絵画から抜け出してきたかのような完璧な美しさを形作っていた。

白楊(はくよう)の華だぞ——?)

 これだけ美しい公主と、装飾具に縁がないという言葉が、阿扇(あせん)の頭の中でちぐはぐに絡み合う。

「それほど早くから、戦にでられていたのですか?」

 知るつもりなどなかったのに、ふと沸いた疑問をそのまま口にしていた。