「どのような状況に陥られたのか、ここからではわからない……ただ、確実に言えることは、娘娘は命を狙われているということです」

　玉蓮の言葉に、蕭(しょう)将軍は視線を彷徨わせた。右に、左にと忙しなく動く瞳と、額を伝う汗。そして、卓の上で握りしめられた拳が白くなっていく。

「……蕭(しょう)妃(ひ)様は、あの気難しい王の寵愛を受けていました。ですが突如……」

　ぽつりと、彼の唇から言葉がこぼれる。

「……王の怒りに触れたというのが表向きの理由ですが、それ以上の事情があるようです。尚書(しょうしょ)である父の伝手を使って調べておりますが……」

　声が小さく震えている。王の怒りという名目で片付けられるには、あまりにも裏が深すぎる。

　蕭(しょう)将軍の手が、引き出しの取っ手に伸ばされたが、そこにかかったまま動かない。見下ろす眼差しは揺れ、何かを飲み込むように喉が上下した。やがて、指先に微かに力が入ったかと思うと、彼は小さな引き出しから帳簿を取り出した。

「これが、蕭(しょう)妃(ひ)様と関係がある記録の写しです」

　彼は目を伏せ、震える手で帳簿を差し出した。玉蓮は写しを受け取り、紙をめくった。指先が走るように書き込みを追う。

　一見すると整然とした記録。だが、そこに記された名前と数値が、脳裏にかすかに残っていた噂と重なった。特定の女官や宦官の異動、不自然な物資の動き。それらが示すものは、決して偶然ではない。

「崔夫人、これだけでは、何にもなり得ません。このようなことでは排除できないのです。全ては……」

「……太后の宮から人が出されていますね」

　その言葉を口に出した瞬間、屈強なはずの蕭(しょう)将軍の顔がほんの少しだけ青白くなった。