闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 廊下を抜け、光の揺れる広間に足を踏み入れた瞬間、玉蓮は、かすかな緊張の匂いを感じる。現れた(しょう)将軍と夫人の眼差しは、どこか遠くを見つめていた。(しょう)将軍は口を結んだまま、まなざしだけが宙を彷徨(さまよ)い、夫人は衣の袖を指先でぎゅっと握りしめている。

(しょう)将軍、先日はご挨拶もそこそこに失礼いたしました」

 玉蓮は深く頭を下げた。(しょう)将軍は、一瞬言葉に詰まるようだったが、やがて重い息をついて招き入れた。

「崔夫人、ありがとうございます。まさか我が屋敷にお越しになるとは」

 広間の奥へ進むと、(しょう)将軍は背後を気にしながら卓に座り、静かに切り出す。

「本日はどのようなご用件でお越しくださったのでしょうか」

「……(しょう)()様はその後、回復されましたか?」

「なんとか、崔瑾様が手配してくださった大医(たいい)のお陰様で、危機は脱したようです」

「そうですか……」

 玉蓮が視線をふと、周囲に巡らせれば、(しょう)将軍は手を上げて側仕えの者たちに下がるように指示をする。(しょう)夫人も同様に、頭を下げてその場を後にする。

翠花(スイファ)、あなたも下がりなさい」

 一瞬、翠花(スイファ)はためらうそぶりを見せたが、玉蓮が「周囲を確認するように」と加えると、頭を下げて出ていった。