◇◇◇ 赫燕 ◇◇◇
鼻につくのは、木材が燃える臭い。至る所から上がる黒煙が目に沁みる。玄済国の旧王都・盛楽。かつては数多の民で賑わい、豪奢な宮殿が存在していたであろうこの都は、今や見る影もない。
住民は恐怖に駆られて逃げ散り、価値あるものは全て持ち逃げられたのか、あるいは灰燼に帰したのか、残されたのは廃墟と化した瓦礫の山々。風が吹き荒れるたびに、かつての繁栄を嘲笑うかのように土埃が舞い上がった。
赫燕軍は、何の抵抗もなく、この旧王都を蹂躙した。略奪する価値すら見出せないこの城に、彼らは惰性で、そしてある種の苛立ちをもって火を放っていく。燃え盛る炎は、突き抜けるような青空を赤黒く染め上げる。
風に髪が靡き、燃え盛る炎の熱が肌に伝わる。赫燕は、燃え上がる都を馬上から眺めていた。その瞳には、勝利の歓喜も、破壊への陶酔も宿らない。目の前で繰り広げられる光景を、一枚の絵画でも見るかのように、ぼんやりと見つめているだけ。
「お頭、今日はここに留まりますかー?」
血の匂いが漂う城内を巡回し終えた迅が、赫燕のもとへと戻り、問いかけた。彼は、血が滴る双刀を振り払って、鞘に収めている。
「ああ」
赫燕は簡潔にそう答え、その視線を隣に控える子睿へと向ける。子睿は恭しく頭を下げると、自身の馬を一歩前へと進め、いつものように貼り付けたような笑顔を周囲に向ける。
「皆さん、水と食べ物にはご注意を。何が盛られているかわかったものではありません。食料は後方から大量に送られています」
「はいよー!」
金色の髪を揺らし、刹が無邪気に笑って元気よく手を挙げた。その横では、迅が牙門に顔を向け、悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「牙門、だってよ!」
迅は、まるで子供のように口の端を吊り上げて、牙門を指差した。その仕草に、牙門はむっとした表情を隠さない。
「なんでお前は、いつも俺だけに言うんだよ! 俺だって城内の食いもんには手をつけてねえだろうが」
「お前は食い意地が張ってるからなー」
「ああん!? お前のとこのが——」
「牙門、うるさい。耳壊れる」
「刹、てめえ!」
牙門は刹に向かって馬の前足を上げた。刹の馬は、その威嚇をものともせずに、ひらりとかわす。刹は、まるで遊びを楽しむかのように牙門の周りを駆け巡り、牙門は苛立ちを募らせて追いかける。
鼻につくのは、木材が燃える臭い。至る所から上がる黒煙が目に沁みる。玄済国の旧王都・盛楽。かつては数多の民で賑わい、豪奢な宮殿が存在していたであろうこの都は、今や見る影もない。
住民は恐怖に駆られて逃げ散り、価値あるものは全て持ち逃げられたのか、あるいは灰燼に帰したのか、残されたのは廃墟と化した瓦礫の山々。風が吹き荒れるたびに、かつての繁栄を嘲笑うかのように土埃が舞い上がった。
赫燕軍は、何の抵抗もなく、この旧王都を蹂躙した。略奪する価値すら見出せないこの城に、彼らは惰性で、そしてある種の苛立ちをもって火を放っていく。燃え盛る炎は、突き抜けるような青空を赤黒く染め上げる。
風に髪が靡き、燃え盛る炎の熱が肌に伝わる。赫燕は、燃え上がる都を馬上から眺めていた。その瞳には、勝利の歓喜も、破壊への陶酔も宿らない。目の前で繰り広げられる光景を、一枚の絵画でも見るかのように、ぼんやりと見つめているだけ。
「お頭、今日はここに留まりますかー?」
血の匂いが漂う城内を巡回し終えた迅が、赫燕のもとへと戻り、問いかけた。彼は、血が滴る双刀を振り払って、鞘に収めている。
「ああ」
赫燕は簡潔にそう答え、その視線を隣に控える子睿へと向ける。子睿は恭しく頭を下げると、自身の馬を一歩前へと進め、いつものように貼り付けたような笑顔を周囲に向ける。
「皆さん、水と食べ物にはご注意を。何が盛られているかわかったものではありません。食料は後方から大量に送られています」
「はいよー!」
金色の髪を揺らし、刹が無邪気に笑って元気よく手を挙げた。その横では、迅が牙門に顔を向け、悪戯っぽい笑みを浮かべている。
「牙門、だってよ!」
迅は、まるで子供のように口の端を吊り上げて、牙門を指差した。その仕草に、牙門はむっとした表情を隠さない。
「なんでお前は、いつも俺だけに言うんだよ! 俺だって城内の食いもんには手をつけてねえだろうが」
「お前は食い意地が張ってるからなー」
「ああん!? お前のとこのが——」
「牙門、うるさい。耳壊れる」
「刹、てめえ!」
牙門は刹に向かって馬の前足を上げた。刹の馬は、その威嚇をものともせずに、ひらりとかわす。刹は、まるで遊びを楽しむかのように牙門の周りを駆け巡り、牙門は苛立ちを募らせて追いかける。

