闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇

◇◇◇ 玉蓮 ◇◇◇

 蒸し暑い風が、薄絹(うすぎぬ)の裾を揺らし、目に眩しい光が注ぐ時間。庭の蝉時雨(せみしぐれ)が屋敷にこだまする中、玉蓮は支度を整えていた。

「奥様は、何をお召しになっても、お美しいです」

 侍女の翠花(スイファ)が無邪気に笑って、帯を締めていく。

 暑い空気を一掃するような爽やかな紅藤(べにふじ)色の衣に、玉蓮は視線を走らせる。玉蓮の衣の多くには、白菊が施され、銀糸(ぎんし)が使われていたため、光が当たるたびに(きら)めく。

「奥様の肌の白さと、この光る衣で、まるで天女(てんにょ)のようだと屋敷の者たちが申しております」

翠花(スイファ)……髪はあまり華美(かび)にせぬように。外に出るわ」

「外出されるのに、飾らぬのですか?」

「旦那様の評判を(おとし)めぬよう、自制せねば。ただでさえ敵国の公主は目立つのよ」

「……御意(はい)

 支度を終えた玉蓮は、翠花(スイファ)と護衛を伴って大都督(だいととく)()を出て、馬車に乗り込む。大通りを南下し、小道をたどっていくと、(しょう)将軍の屋敷が見えてきた。門番に顔と名前を告げると、すぐ屋敷内へ通される。