◆
扉を開き、書庫に入ると、墨の香りが鼻を抜ける。整然と並べられたそれは、まさに崔瑾という人そのものだった。奥の書棚には、軍の補給・調達記録や人事の異動記録、各地の情勢報告書が整然と並べられている。
玉蓮は、補給記録の中に目を通し始めた。 帳簿には納入品の内容と単価、そして納品担当の名が記されている。その中に、異様に安価な兵装が連続して記されている箇所があった。
そこには、同じ名が何度も記されていた。玉蓮は指先でその名をなぞり、次に人事記録へと手を伸ばす。異動・左遷された兵部の官吏たちの中に、その名とつながる者の名前が何人も見つかる。
(この流れ……追われた者たちは、皆、何者かの意向で消されている。やはり周礼が——)
その時だった。書庫の静寂を破るかのように、外から微かな気配が玉蓮の意識を捉えた。玉蓮は素早く、音もなく、手にしていた記録を元の棚へと戻していく。
カタン、と背後でわずかに音がした時には、すでに誰かが立っていた。だが、その時、玉蓮の手に握られていたのは、無害な装丁の書。まるで最初からその本を読んでいたかのように。
「何を、されているのですか」
書庫に響いたのは、凛とした阿扇の声。静かではあるが、その声には一切の揺れがなく、研ぎ澄まされた刃のように鋭い。
玉蓮は、ゆるやかに振り返り、微笑んだ。完璧に計算された優雅さを湛えさせて。あくまでも淑やかに、衣擦れの音さえ立てずに彼の前へと歩み寄る。
「阿扇」
玉蓮は再び微笑んだが、その微笑みは阿扇の刺すような視線によって完全に吸い込まれてしまった。
扉を開き、書庫に入ると、墨の香りが鼻を抜ける。整然と並べられたそれは、まさに崔瑾という人そのものだった。奥の書棚には、軍の補給・調達記録や人事の異動記録、各地の情勢報告書が整然と並べられている。
玉蓮は、補給記録の中に目を通し始めた。 帳簿には納入品の内容と単価、そして納品担当の名が記されている。その中に、異様に安価な兵装が連続して記されている箇所があった。
そこには、同じ名が何度も記されていた。玉蓮は指先でその名をなぞり、次に人事記録へと手を伸ばす。異動・左遷された兵部の官吏たちの中に、その名とつながる者の名前が何人も見つかる。
(この流れ……追われた者たちは、皆、何者かの意向で消されている。やはり周礼が——)
その時だった。書庫の静寂を破るかのように、外から微かな気配が玉蓮の意識を捉えた。玉蓮は素早く、音もなく、手にしていた記録を元の棚へと戻していく。
カタン、と背後でわずかに音がした時には、すでに誰かが立っていた。だが、その時、玉蓮の手に握られていたのは、無害な装丁の書。まるで最初からその本を読んでいたかのように。
「何を、されているのですか」
書庫に響いたのは、凛とした阿扇の声。静かではあるが、その声には一切の揺れがなく、研ぎ澄まされた刃のように鋭い。
玉蓮は、ゆるやかに振り返り、微笑んだ。完璧に計算された優雅さを湛えさせて。あくまでも淑やかに、衣擦れの音さえ立てずに彼の前へと歩み寄る。
「阿扇」
玉蓮は再び微笑んだが、その微笑みは阿扇の刺すような視線によって完全に吸い込まれてしまった。

