劉義の書斎を出た玉蓮を待っていたのは、朗らかな光。

「今日は特に夕陽が美しいんだ。見に行こうか」

 いつも通り差し出された手に、玉蓮は自分の手を重ねた。ゆったりと歩く劉永を見上げながら、その隣を歩いていく。何度繰り返したかわからないその光景に、やはり息がほどけていく。


 練兵場の片隅で、茜色に染まる夕陽を黙って眺めた。日中の喧騒(けんそう)が嘘のように静まり返った空間に、風が穏やかに吹き抜け、沈みゆく太陽の最後の輝きが世界を柔らかな光で包み込む。

 夕陽にかざすように、玉蓮がその手と懐から出した木製の鳥を掲げる。腕には、鍛錬の証である赤や紫の痕が鮮やかに浮かび上がり、夕陽の輝きで、まるで花のように見える。劉永は、傷だらけの玉蓮の手をそっと鳥ごと包み、いたわるように優しく撫でる。

「真っ白な手が、真っ赤になってしまったね」

 劉永の声を聞くと、強張っていた肩の力が、自然と抜けていくのが分かった。

「良いのです。玉蓮は、このために生きているのですから」

 玉蓮の視線は、姉が遺した鳥へと向けられていた。劉永の温もりに包まれながらも、意識は、遠い場所へと飛んでいく。目を閉じれば、浮かび上がるのは、墨を流したような漆黒の闇。その闇の奥底で、血に濡れた刃が閃き、冷たい光を放っていた。


 ——この手でいつか、あの男の喉を掻き切るのだ。


 彼から伝わる温かさとは裏腹に、自分の指先から、すうっと血の気が引いていく。