闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。


 玉蓮は、その詩歌(うた)を聞きながら、まるで自分とは関係のない遠い国の物語のように、ゆっくりと瞳を閉じた。道行く人々のざわめきが大きくなり、熱気が伝わってくる。

「姫様、迂回いたしましょうか」

 御者(ぎょしゃ)の不安げな問いかけに、玉蓮は、ふ、と口の端だけで笑みを浮かべた。

「わたくしを見たいというのなら、見せましょう」

 玉蓮の言葉に、御者の背中がびくりと震えた。

「姫様! なりませぬ!」

 御者の制止をそのままに、玉蓮の白い指が、窓の垂れ布を捉えた。指先のざらりとした感触。一呼吸おいて、玉蓮はその布を迷いなく、優雅に跳ね上げた。一気に流れ込む午後の陽光。玉蓮は顔を背けることもなく、その肌を白日の下に晒した。


 ——刹那(せつな)


 喧騒(けんそう)が、死に絶えた。

 やかましかった野次馬のざわめきが、罵声が、嘲笑(ちょうしょう)が。まるで鋭利な刃物で断ち切られたように、プツリと途絶える。聞こえるのは、風の音と、誰かが息を呑む音だけ。

 何百という瞳が、ただ一点、馬車の窓枠に切り取られた玉蓮の顔に釘付けになり、凍りついている。畏怖(いふ)驚愕(きょうがく)。そして、底なしの情欲。

 それらの粘りつくような視線を、玉蓮は長い睫毛の下から見下ろした。怯えもせず、媚びもせずに。

「進みなさい」

「……は、は!」

 静寂の中に落ちた声に、御者が弾かれたように我に返る。