闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 玉蓮の脳裏で、輿入れの記憶が鮮明によみがえる。あの時、王が見せた欲深く血の走った瞳は、人間を人間とも思っていない、まさしく絶対者のそれ。妃の一人や二人、殺めることに何の躊躇もないだろうことは、容易に想像できる。

 玉蓮は黒い石をそっと盤に置いた。静寂な部屋に、かちりと乾いた音が響く。だが、胸がさざ波を立てていく。本当の仇はどこにあるのか、と。

 王の決断は、いつも誰かの言葉をなぞっている。そして、逆らえる力さえその手にしていない。

(なぞらせているのは——誰だ?)

 誰が、王を操っているのか。誰が、この国を意のままに動かしているのか。王を討つには、何を壊せばいいか。玉蓮は、盤上にある、敵の王に見立てた一つの黒石を、じっと見つめた。その石の周りは、他の黒石が、鉄壁の守りとして固まっている。

(この王を直接狙っても、届かない。ならば——)

 彼女の指が盤上を滑り、その奥深くに鎮座する黒石から、少し離れた場所にある穴に白石を、ぱちりと打った。その一手で、黒石が二つ取り除かれ、盤全体の黒石の流れが澱み、空気が、動く。

「二人……か?」

 王を、王として成り立たせている、その要の石。

(情報がいる)

 玉蓮は、最後の白石を置くと、そっと居室を抜け出し、崔瑾(さいきん)の屋敷の一角にある書庫へと足を向けた。