闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇ 玉蓮 ◇◇◇

◇◇◇

 崔瑾(さいきん)の屋敷に嫁いでから、日々は穏やかに流れ、ふた月が過ぎた頃。崔瑾(さいきん)は節度ある距離を保ち、玉蓮に過度な干渉をせず、屋敷の者たちも、温かく、礼を尽くしてくれる。

 そんな中で、玉蓮の心は、穏やかという言葉とは程遠く、静けさが、猛毒のように心を(むしば)んでいく。赫燕(かくえん)の元にいた頃は、常に、次の戦、次の勝利だけを考えて進めば良かったのに、この穏やかな日々は、思考する時間を与えすぎる。姉の最期を、何度も、何度も、頭の中で描いてしまうのだ。

 あの夜、赫燕(かくえん)と交わした言葉が、脳裏に焼き付いて離れない。

——『要を壊せ』

 道は、今もなお続いている。(かたき)(ふところ)近くに入れたのだから、その道は、より太くなっているはず。だが、やはり一国の王。顔を合わせる機もなければ、それが訪れる兆候すら見えない。

 夜更け、侍女を全て下がらせた居室で、玉蓮は独り、盤に石を並べていた。

(後宮に入っていれば、近づけていた——?)

 ふと、そんな考えが脳裏をよぎったが、玉蓮はすぐに首を横に振る。もしもあの時、あのまま後宮に入っていたならば、王の玩具として弄ばれ、すぐに首を落とされていたことだろう。おそらく、懐に忍ばせた匕首を抜く間もなく。

(では、どう近づく? どう攻める? 要を壊すには——要?)