闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 崔瑾(さいきん)は、その大柄な男の名前を優しい声色でもう一度呼んだ。

「はっはっは! 喋りすぎましたかな」

 悪びれる様子もなく豪快に笑う、その朗らかな声は、書斎の厳かな空気を一瞬だけ和ませる。

 その時、崔瑾(さいきん)の視線が、ふと玉蓮の衣の襟元へ流れた。

「……それは、白楊(はくよう)国の物ですか」

「え?」

濃紫 (こきむらさき)色とは珍しいですね。国宝になるほどの色合いだ」

 まるで心臓を掴まれたような一瞬のざわめき。玉蓮は無意識に水晶を握りしめ、胸元に引き寄せていた。そこに触れる指先が微かに震えてしまう。

「これは、わたくしの……」

 言葉が詰まる。頭の中が白く染まり、何も出てこない。目の前の男は口角を少しだけ上げて、何も言わずに視線を戻した。

「……珍しい色合いの石だ、と思っただけです」

 微かに広がる波紋のように、不規則に揺れる(まぶた)。しかし、崔瑾(さいきん)はそれ以上、その石について探ろうとはしなかった。彼の顔に波は立たず、声も淡々としている。玉蓮は、その完璧な平静さに、小さく息をこぼし、「そうですか」と呟いた。