闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。



 屋敷の書斎に戻り、傍らの水差しから杯に水を注ぎ、それを一気に飲み干した。喉は冷たいが乾いたままだ。溜息は、胸の奥から静かに漏れ、顔を覆った手に、微かな震えを伝えた。

 脳裏に蘇る、あの粘つくような周礼の笑み。そして、居並ぶ大臣たちの事なかれ主義の目。崔瑾(さいきん)は、卓の上で拳を固く握りしめた。血管が浮き上がり、関節が白くなるほどの力で。

(——守れるのか。民を、兵を、そして——)

 その時、不意に静かな衣擦れの音がした。はっと顔を上げると、いつの間にか、玉蓮がそこに立っていた。午後の淡い光を受け、清廉(せいれん)に輝く青い衣と玉の髪飾りが、彼女の美しさを際立たせている。

「旦那様……」

 玉蓮の控えめな声が、凍てつくような心の中に吸い込まれていく。腹の底が焦げつけるように熱くなる。鼻孔(びこう)に熱風が走ったかのように、顔が歪み、唇の端が震え、深く息を吐いた。

「兵たちは、国を、民を守るために命を散らしてきた——それなのに、私は」

 一瞬、声が震える。

大都督(だいととく)でありながら、この国を守れないのか」