闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 そして今、崔瑾(さいきん)は、その玉座の前で、手始めにある真実を明らかにしようとしていた。朝議が始まり、崔瑾(さいきん)が証拠の書を提示した瞬間、大臣たちの間には緊張と好奇の入り混じった空気が走った。

「周礼の一族が、国境の兵士たちに送られるはずの武具を横領し、代わりに、使い物にならぬ粗悪品を納入していた証拠にございます。このために、どれほどの兵が犬死にさせられたことか。これは国を内側から(むしば)む大罪にございます」

 朝議(ちょうぎ)の間には、驚きと動揺なのか、ざわめきが広がる。周礼は一瞬、その蛇のような顔を引き()らせたが、すぐにいつもの粘つくような笑みを浮かべ、涼しい顔を貼り付けた。

「おや、崔瑾(さいきん)殿。それは人聞きの悪い。戦で兵が死ぬのは当然のこと。この戦乱の世、誰もが承知していることですぞ」

 問題など存在していないかのような軽薄な響き。周礼は崔瑾(さいきん)の視線を避けて、居並ぶ大臣たちに視線を送る。

「国庫のための小さな商いにすぎませぬ」

「小さな商い?」

「さよう。何より、国の高貴な方のご意向でもあるのです。たとえ大都督殿といえども、軽々には否とは申せまい。この商いが、国を豊かにし、ひいては大王様の御威光を輝かせる一助《いちじょ》ともなり得るのです。もっと広い視野でことを見られることをおすすめしますぞ」

 崔瑾(さいきん)は眉を(ひそ)めた。周礼という蛇の首が、この国の、最も(くら)い闇へと繋がっている。膝裏がぞわりと粟立ち、視界の端が微かに揺れる。足元の床が、波打つように重く沈んでいく。