闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇ 玉蓮(ぎょくれん) ◇◇◇

 酒宴の熱気が渦巻く中。玉蓮は、赫燕(かくえん)の胸に光る、もう一つの紫水晶に気づいてしまった。その時、崔瑾(さいきん)のことも、劉永(りゅうえい)のことも、両国の重臣たちのことも、全てが遠のく。視線の先の男と、その胸で鈍く輝く石だけが、玉蓮の意識の全てとなった。

 彼女の胸の奥で、熱い何かが込み上げる。この、一年以上の月日が隔てても、自分と同じ証を、魂の半分を、その胸に抱き続けている、その事実。


(だめ……)


 その、あまりにも甘美な熱に、一瞬、思考が()け落ちる。

 だが、赫燕の視線は、自分を通り越し、隣にいる崔瑾へと向けられる。そして、あの残酷なまでに愉しげな唇と、勝利を祝うかのように、掲げられた杯が視界に入った。

 玉蓮の背筋を氷のような戦慄が、駆け上る。あの男は決して、無駄なことをしない。残酷なまでに合理的で、狂おしいほどに狂気的。その全ては、赫燕が描く盤の上。

 魂の絆は、あの男の手で最も鋭利な刃となり、そしてその刃の切っ先は、今、隣に座る、このあまりにも誠実な男の胸に、寸分の狂いもなく向けられている。そう気がついた時——息が止まりそうになった。

 それに気づきながらも、この石を外せない。

 隣に座る崔瑾の、あまりにも清廉(せいれん)な光を浴びれば浴びるほど、自らの胸に抱いた、この(くら)い石の熱が、まるで己の罪の在り処を告げるかのように、じりじりと肌を()いていく。

 玉蓮は、罪を隠すかのように、その胸元にそっと手を添えた。紫水晶の冷たさが、赫燕の熱を呼び覚ます。もう触れていないはずの指先の感覚が、肌の奥で(うず)く。

「……旦那様」

 隣に座る崔瑾を小さく呼べば、その視線がゆっくりとこちらに向けられる。

「人酔いを、したようです……少し、外を歩いてきます」

 意図せずに、言葉が途切れてしまう。喉が詰まって、ほんの少しだけ(あえ)ぐように息をする。

「……わかりました。翠花(スイファ)、供を」

 崔瑾は、短い言葉で側仕えの翠花(スイファ)に供を命じる。一礼し、その場を後にした玉蓮は、翠花(スイファ)に支えられながら広間を出た。