劉義(りゅうぎ)の手が、盤の上で要所を押さえていた石を掴み取っていく。

「敵味方に限らず戦場の兵士の命も、そこに暮らす民の命も、まるで盤上の駒のように扱い、勝利のためならば、平然と犠牲にする。その冷酷なまでに徹底した戦略は、究極の合理性を追求しているとも言えるだろう。その才はまさしく、光。しかし、その道は紛れもなく、闇だ」

劉義(りゅうぎ)がそう断じた瞬間、玉蓮の指先がぴくりと跳ね、次の瞬間には拳を握り込んでいた。

伏せていたその顔をゆっくりと上げる。

「……ですが、先生。その“闇”は、一度も負けたことがないと伺っております」

劉義(りゅうぎ)の目が、わずかに見開かれた。一度、盤に目を落とした視線が再び玉蓮をとらえる。

「時に常識では考えられぬ奇策を(ろう)し、絶望的な状況からすら勝利を掴み取る。その智謀(ちぼう)は、まさに天賦(てんぷ)のもの」

「それでは」

「だが、忘れるな、玉蓮。その力がいかに輝かしくとも、それが破壊の刃である限り、必ず持ち主をも貫くのだ」

玉蓮は沈黙したまま、ただ師の顔を見つめた。劉義の言葉が、熱い砂のように頭の中に流れ込んでくるのに、掴もうとしても、指の間からこぼれ落ちていく。

「我々は、勇敢なる騎馬民族を祖に持つ国。武勇が何よりも(たっと)ばれる」

そう、武勇も知略も正義だ。それがなければ、この世界を生きていけないのだから。赫燕将軍は、何よりも正義ではないか。

ただ、赫燕(かくえん)という名の熱だけが、喉の奥に残ってひりつく。

「それでも……赫燕将軍は、我々が目指す道とは相容れぬ存在。だが、お前は違う。お前はまだ、光の道を選ぶことができるはず。どちらを背に立つかは、お前次第だ」

玉蓮は、わずかに眉根を寄せ、問い返そうとして微かに開いた唇を、きつく結び直した。

盤の中央の一点——天元(てんげん)。その孤独な石に、玉蓮の視線が吸い寄せられ、しばし離れなかった。