闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

崔瑾(さいきん)様、お願いでございます! 妹をこのまま後宮で犬死にさせるのだけは!」

 その言葉を最後に、(しょう)将軍は、嗚咽を漏らすばかりとなった。書斎を支配するのは、重い沈黙だけ。だが、卓に置かれた崔瑾(さいきん)の指先が、一度、二度、ことり、ことりと、神経質に卓を叩く。

「私がなんとかする。(しょう)将軍、今は退がり、静かに(しら)せを待て。決して早まるな」

 崔瑾(さいきん)は、鋼のような強い声で告げた。

 姉を殺した男が君臨するこの国は、その心臓部から腐っている。玉蓮の胸に鈍い鉛の塊が落ちたようだった。呼吸がひっかかる。(しょう)将軍の苦しみを前にしても、なお冷静であろうとする崔瑾(さいきん)——その背負う役目と孤独が、まるで自分のことのように重くのしかかった。

 この、どうしようもない現実の中で、彼は戦っているのだ。血を吐くように、もがきながら。守るべきもののために、たった一人で。あまりに孤高で、あまりに愚直な姿。玉蓮は前を見据える崔瑾(さいきん)を、真っ直ぐに視界に映していた。