闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。


「様々な証跡(しょうせき)を辿り、書簡や帳簿などを手に入れていました。私の予想が正しければ、太后(たいこう)は、王の生母である崔王后(さいおうこう)を殺害しています」

 その言葉に、玉蓮は息を呑んだ。国の最高権力者である太后が、王の母を殺害したというのか。いや、違う。その権力を得るために、王の母を殺害したのか。

崔王后(さいおうこう)を」

「はい。私の叔母上です」

「大王は、それを……」

「大王は真実を知らぬまま、太后(たいこう)の手のひらで操られています。崔王后が崩御された際……宮にいたものも含めて全員の死因は焼死とされていますが、遺体を運ぶための人夫の数が、あまりに少なすぎるのです。崔王后の亡骸を丁重に葬るふりをして、実際には記録にも残らぬ場所へ捨て去った可能性が高い」

「お、王后様を……?」

「はい。今は網を破る機を待っています。……玉蓮殿。太后は、生母を殺害し王子を得たのです。あの方は、目的のためなら手段を選ばない。以前、蕭家(しょうけ)に起こった全ては、調査を進めていたこちらへの牽制です」

「牽制で……あのような!」

(いや、後宮とはそういう場所だ)

 いつ、何が起こり命が狙われるかわからない。それがあの場所なのだ。玉蓮は息を呑んだ。

「はい。今は、ひたすらに待つときです。機が熟すのを」

 崔瑾の瞳には、燃えるような決意の炎が宿っている。その瞳が、再び玉蓮に戻ってきて、柔らかく細められた。

「ですから……玉蓮殿は、どうか危険な真似はせぬように。あなたが一人でその網に触れれば、今度はあなた自身が絡め取られてしまう。私は……それだけは、耐えられないのです」

 玉蓮の心に広がる、温かい波紋。本当に心から案じているのがわかるからだ。でも、その優しさが、玉蓮の胸を締め付けていく。言葉を返せない玉蓮の頭を、崔瑾が撫でた。

「今日は、冷えますから……貴女(あなた)の手を離したくないのです。寝所に戻りましょう」

 崔瑾は玉蓮の手を取り、微笑(ほほえ)む。手を引かれ、再び温かい寝所に戻る。柔らかな絹の寝具が肌に心地よくて、そこにすり寄るようにして、玉蓮は大きな腕の中で、ゆっくりと目を閉じた。