それを見た瞬間に、崔瑾の胸の奥で、硬く閉ざされていた何かが、音を立てて開いた。手にした碁石が、じんわりと体温を帯びる。彼女の笑顔に、ただそれだけで、胸の奥がわずかに膨らむ。名前など、つけたくなかった。つけてしまえば、きっと、戻れなくなる気がしたから。
白と黒の石が織りなす宇宙が広がる。一つひとつの石が、互いに連携し、盤上に一つの揺るぎない秩序を築き上げていく崔瑾の手に対し、玉蓮が打つ手は、従来の定石にとらわれない。時に風のように自由奔放に、時に激しく攻め立てる嵐のように盤面を破壊する。ふと、自身の唇から笑みが溢れる。
「碁は不思議なものです。語らずとも、相手の人となりや思いがわかる」
「わたくしの打ち筋はいかがです?」
崔瑾は、一瞬言葉を選んだ。彼女の碁は、確かに独特だった。
「その美しさと裏腹に、時に無謀でありながら、奇策に富み、それでいて真っ直ぐです。苛烈なまでに」

