闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 そして、大きく息を吐くと、いつものように玉蓮の小さな肩をすっぽりと包み込む。彼の大きな手が彼女の体を優しく抱き寄せ、その温かさが胸に染み渡るように広がっていく。


 玉蓮は口を固く結んだ。彼の胸に押し付けられた頬が、熱く濡れていくのを止められなかったから。せめて声が漏れ出ぬように唇を強く、強く噛む。

「玉蓮。僕は……きみを待っているからね」

「……(えい)兄様、わたくしが都の者たちに、なんと(うた)われているかをご存知でしょう」

「この気持ちは、ずっと変わらないよ」

 あの日と同じ、穏やかな夕暮れ。鳥のさえずりが遠くに聞こえ、風がそよぐ音だけが、やけに大きく耳に残る。劉永の言葉に、手の温もりや、茜色の光に透けた彼の髪の記憶が、一度に胸に流れ込んできた。

「ずっと……守ってくださったこと、決して忘れません」

 抱きしめる腕の強さが増していく。心の臓の音。日向の匂い。これが最後だ。この温もりに身を委ねてしまえば、きっと刃を鈍らせる。だから、今ここで、すべてを断ち切らなければならない。

 玉蓮は、そっと劉永の体を押し返した。

「この手は、これから多くの血で汚れます。永兄様の隣に立つ資格など、もうどこにもないのです」

 驚いたように目を見開く劉永を残し、玉蓮はくるりと背を向けた。もう、振り返らない。振り返れば、きっと泣き崩れてしまうから。玉蓮は前だけを見据え、一歩を踏み出した。