塾でも奇異な天才として彼の名は噂に上っていた。赫燕(かくえん)将軍は、白楊軍を駆け上がるようにして出世し、若くして将軍となった稀有(けう)な存在だ。

八尺五寸とも言われる体躯(たいく)と、美しい風采(ふうさい)に加えて、その聡明さ。

そして何よりも、王自らが(えい)じたという詩が、その名をさらに特別なものにしていた。


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魁偉(かいい) 龍姿(りゅうし)  鳳貌(ほうぼう) 赫然(かくぜん)

鬼才(きさい) 天授(てんじゅ)  兵道(へいどう) 莫測(ばくそく)



雄々(おお)しく威風堂々(いふうどうどう)たる龍の姿、鳳凰(ほうおう)のごとき容貌(ようぼう)が際立ち輝いている。

その才は鬼神(きじん)の如く、天に授けられしもの。

兵法(へいほう)の奥深さは測り知れず。

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私塾の兄弟弟子たちは、赫燕(かくえん)の軍略とともに、この詩を何度も口にした。

「はい、お名前とその戦果と、そして……」

玉蓮が言い淀む。

大陸最強とも言われる、強力な騎馬隊を擁する赫燕(かくえん)軍がおさめる戦果は、突出していた。彼の指揮する騎馬隊は、嵐のように敵を蹂躙(じゅうりん)し、瞬く間に戦局を(くつがえ)すと言われている。だが——

「——その、非道」

玉蓮の心を見透かしたかのように、劉義(りゅうぎ)は静かに言葉を継いだ。

「あの男は、戦っている盤そのものが違う。地を取るのではない。ただひたすらに、敵の駒を殺すことだけを目的とする。相手を攻め立て、そして最後には、盤そのものを叩き割る」