◇◇◇
◇◇◇ 崔瑾 ◇◇◇
大きな池を臨む亭は、穏やかな春風がそよぎ、桃の花びらがはらはらと舞っていた。崔瑾が玉蓮を碁盤の前へと誘った。ぱちりと石を打つ、硬質な心地よい音が響く。
いつも通りに盤石なその盤面。だが、彼女が一手置くたびに、その秩序は少しずつ崩れ、気づけば、石の全てが——彼女を中心に回り始めていた。まるで、秩序で塗り固められた崔瑾の世界に、玉蓮という、ただ一つの混沌が投じられたように。そして、崔瑾は、その崩壊の様を美しいと、そう思ってしまった。
「……お見事です、玉蓮殿。その一手は、常道からは外れている。ですが、確かに私の弱点を突いている。地を囲うのではなく、ただ私の石を殺すことだけを考えているかのようです」
思わず、ほう、と感嘆の息が漏れる。
「……崔瑾殿の、そのあまりに美しい布陣を見ていると、つい意地悪をしたくなります」
玉蓮の口元に、ほんの微か、しかし確かな笑みが浮かぶ。それは、少なくとも崔瑾がこれまで見たことのない、彼女の、心からの微笑みのように思えた。異国の地で、常に警戒と孤独の中に身を置いていた彼女が、初めて見せた無防備な笑顔。その笑みは、月の光のように静かなのに、次の瞬間には、まるで淡雪のように、はかなく消えてしまいそうだった。
◇◇◇ 崔瑾 ◇◇◇
大きな池を臨む亭は、穏やかな春風がそよぎ、桃の花びらがはらはらと舞っていた。崔瑾が玉蓮を碁盤の前へと誘った。ぱちりと石を打つ、硬質な心地よい音が響く。
いつも通りに盤石なその盤面。だが、彼女が一手置くたびに、その秩序は少しずつ崩れ、気づけば、石の全てが——彼女を中心に回り始めていた。まるで、秩序で塗り固められた崔瑾の世界に、玉蓮という、ただ一つの混沌が投じられたように。そして、崔瑾は、その崩壊の様を美しいと、そう思ってしまった。
「……お見事です、玉蓮殿。その一手は、常道からは外れている。ですが、確かに私の弱点を突いている。地を囲うのではなく、ただ私の石を殺すことだけを考えているかのようです」
思わず、ほう、と感嘆の息が漏れる。
「……崔瑾殿の、そのあまりに美しい布陣を見ていると、つい意地悪をしたくなります」
玉蓮の口元に、ほんの微か、しかし確かな笑みが浮かぶ。それは、少なくとも崔瑾がこれまで見たことのない、彼女の、心からの微笑みのように思えた。異国の地で、常に警戒と孤独の中に身を置いていた彼女が、初めて見せた無防備な笑顔。その笑みは、月の光のように静かなのに、次の瞬間には、まるで淡雪のように、はかなく消えてしまいそうだった。

