闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。



 そこへ翠花(スイファ)(かんざし)を手に戻ってきた。その瞬間、店の奥から女たちの笑い声と、なにやら興奮した囁きが耳に届いた。

「あの方が(さい)家のご正室になられた、白楊(はくよう)国の公主様ね」

「美しい方。まるで絵から抜け出たよう」

崔瑾(さいきん)様は、どのご縁談もお断りになられていたというのに、まさか白楊(はくよう)国の方をお迎えになるとは」

 ひそひそと囁かれる声は、次第に大きくなり、阿扇(あせん)の耳にもはっきりと届く。ふと、気取られぬように視線を巡らせれば、そこにいたのは高官の娘たち。皆、豪華な衣装を身につけ、扇で口元を隠しながらも、その視線は遠慮なくこちらに向けられていた。

 崔瑾に縁談を断られた家の令嬢もいる。彼女の眼差しには、悔しさと嫉妬が入り混じっている。その鋭い光の一つ一つが玉蓮に突き刺さっている。

「崔瑾様は、公主を手に入れられて、それはもう朝廷でも息巻いておいでとか」

「元は大王が望んだ公主ですもの。それを横取りできる(さい)家の力は、天まであと三寸と(うた)われているわ。並大抵の家では、とてもできることではないでしょう」

「敵国の公主でありながら、大都督(だいととく)である崔瑾様をたぶらかすなんて、とんだ手腕ね。一体、どんな妖術を使ったのかしら」

「戦にも出られていたそうですわ。前線の地で、どんな手練手管で崔瑾様をたぶらかしたのか、想像するのも恐ろしい。殿方に囲まれて、娼婦の真似でもされたのではなくて? まったく、恥知らずな」

 玉蓮に対する心ない囁きが、阿扇の耳を塞ぐ。玉蓮に視線を向けても、白く美しい顔がそこにあるだけ。でも、どこか微笑(ほほえ)んでいるようにも見えるそれに、阿扇は背筋がぞくりと震えた。

「崔家と対抗する大臣たちの中にも、いまだ公主様を得ようと(はかりごと)を巡らせる者もいるのですって」

「朝廷に争いを巻き起こすなんて、まさに月貌華(げつぼうか)。その美貌で、男たちを惑わし、国を傾ける気なのかしら。この国の平穏を乱す存在でしかありませんわ」

「まごうことなき妖婦(ようふ)ですわね。きっと、あの瞳で男たちを(たら)し込み、意のままに操るのでしょう。我が国の未来を危うくする前に、早く追放すべきです」

「崔瑾様もお早く、家柄の良い側室を娶られればよろしいのに。そうすれば、あの公主も、これ以上、あの方の隣に立つことはできなくなるでしょう。崔家(さいけ)に嫁ぎたい令嬢など、星の数ほどいるのですから」