闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 馬斗琉(ばとる)から、はっと息を呑むような音が聞こえる。彼は一度深く息を吸い込み、口を開いた。

「……水の源でございます。大孤(第こ)との国境から南下した先に、今は我ら玄済(げんさい)国の水源地となっている——」

「——ならば、話は早い」

 馬斗琉(ばとる)の言葉が、終わるか、終わらないか。玉蓮は、まるで最後の駒が嵌まった盤面を見るかのように、静かに微笑んだ。あの男の呼吸が微かに宿る。

「彼らが求める、《《餌》》を差し出しましょう」

 玉蓮は、戦場から少し離れた戦場の最前線にある、一つの小さな砦を指差す。敵の「強欲」そのものを釣り針にかけ、その魂ごと釣り上げる、苛烈な罠を仕掛けなければ。頭の中で兵の駒が動いていく。

「勝利など求めてはいない……彼らが欲しいのは、水」

 玉蓮は指先で(とりで)をなぞり、その先の谷間を叩いた。

「ここを(から)にする。女子供だけ残し、我々がこの戦線の民と地を諦めたかのように、見せかける。彼らは必ず、食いつくさんと攻めに出る」

 馬斗琉(ばとる)豪放(ごうほう)な顔が、すっと色を失った。その唇が何か言いかけて閉じ、拳が卓の下でわずかに震えた。

「しかし、玉蓮様、それでは——」

「これは誘い込むための罠。(とりで)の周囲のこの谷間に精鋭と弓隊を伏せる。敵が砦に群がったその瞬間、四方から矢の雨を降らせます。民は、夜の闇に紛れて抜かせ、砦には炊煙(すいえん)と白布《はくふ》だけを。手出しはさせません」