闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 阿扇は、玉蓮の纏う上質な衣や髪に挿された簡素ながらも美しい(かんざし)に目を向けた。それらは、彼女が「縁ないもの」と語るにはあまりにも自然に玉蓮に馴染んでいる。

 玉蓮は、紛れもなく美しい。この広い天下に美女はいるといえど、これほどの容貌はまさに類稀なるものだろう。透き通るような白い肌、夜空の星を閉じ込めたような瞳、そして桃の花びらのような唇。その全てが、絵画から抜け出してきたかのような完璧な形を作っていた。

白楊(はくよう)の華だぞ——?)

 これだけ美しい公主と、装飾具に縁がないという言葉が、阿扇の頭の中でちぐはぐに絡み合う。

「それほど早くから、戦にでられていたのですか?」

 知るつもりなどなかったのに、ふと沸いた疑問をそのまま口にしていた。

「旦那様から、力のない公主だと聞いていませんか? 力がないとは、そのままの意味。力のない女たちは、後宮では存在していないと同義です」

「でも、公主なら……」

「王の関心がない人間に、配慮する者などおりません。王の寵愛こそが、女たちの唯一の武器であり、盾。それがなければ、公主であろうと、ただの道具。牛や馬と同じです」

 それらが、阿扇の頭の中で、意味を結ぶのに数瞬(すうしゅん)を要した。思考が、止まる。

「後宮は、力のない者は生き残れない。力がなければ、待つのは死、のみ。美しさも、教養も、何の役にも立ちません。力を持ち、その力を利用して生き残るしかない場所なのです。衣より、(かんざし)よりも、わたくしは……姉上とともに、その日を生き延びる(かて)が欲しかった」

 玉蓮は、遠い目をしながら語った。確かに、玄済(げんさい)国の王に贈られてくるということは、そのまま死を意味すると言ってもいい。昨夜、崔瑾に訴えた自分の言葉が今になって、己の心の臓を締め付けて、呼吸が浅くなる。

「……失礼、しました」

 謝罪の言葉を紡ぎ、深く頭を下げた。阿扇は、思わず口の中を噛んだ。血の味がする。その苦みが、玉蓮の言葉の重みをさらに増幅させる。