闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 北には大孤(だいこ)、東には(せん)。大国である玄済(げんさい)は、あまりにも多くの国と、その国境を接している。その、複雑に絡み合った国境線の一つ、北東部に彼女は不自然な空白地帯を見つけた。

「崔瑾殿、ここの地は? 王都・呂北(ろほく)の西に広大な地が広がっていますね」

 玄済(げんさい)国の王都・呂北は、玄済国の中央ではなく、国の北東に位置していた。後ろは険しい山脈に守られた天然の要塞だが、一部、(せん)大孤(だいこ)と国境が近しいところもある。

霜牙(そうが)の地、ですね」

「元々の王都があった、盛楽(せいらく)の方が大孤(だいこ)国や(せん)国の国境から距離もあるのでは?」

 玉蓮の問いかけに、崔瑾は遠い目をして答える。

「——かつて、()と呼ばれた騎馬の国があったそうですが、暴政ゆえに、民に見捨てられ、滅びたと聞いています」

()……」

玄済(げんさい)国は、()の民と呼応し、()の国王を処刑し、()国を滅ぼしたそうです。そして、豊かな水源が近い、夏国の領土だった呂北(ろほく)の地に遷都した、と」

 玉蓮は、地図を再び視界に捉えた。地図の上ではただの空白に過ぎないが、かつてはそこに、人々が暮らし、文化が栄えた国があったのだ。

「その豊かな水源があるからこそ、我が国はここまで富むようになったようです」

 崔瑾は、突然顔を上げてどこか気の抜けた声で「ああ」と発して、両手をパンと叩く。どうしたのかと見つめる玉蓮に、楽しげな笑みを見せながら「そういえば」と続けた。