闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 頭を下げた崔瑾の頭上で、唸るような声が聞こえた。

「母上——!」

 王の叫びが太后の言葉を遮るように発せられた、その瞬間——ピシャリ! 乾いた音が響き渡った。太后の手に握られていた扇が、王の目の前で鋭く閉じられる。その視線は氷のように冷たく、王を射抜かんばかりに向けられている。王は全身を震わせ、顔を真っ赤にして、ただ太后を見つめ返している。

「……崔瑾(さいきん)殿は我が国の《《英雄》》。英雄には、英雄に相応しい華がありましょう」

「ですが!」

「——大王」

「っ——」

「王とて、時には宝物(ほうもつ)下賜(かし)せねばなりませぬ」

 太后は妖しげな笑みを浮かべながら、紅で彩られた唇を歪ませる。そしてその指先が、まるで盤上の石でも打つかのように、とん、と一度だけ扇の親骨を叩いた。

 崔瑾は、手を合わせ、頭を下げた。

(今は、ただこの瞬間を(しの)いだだけ。だが、まず一つ)

 全身から音もなく力が抜け、膝が小刻みに揺れた。止めていた息が、熱を帯びて喉を焼く。その震えを誰にも悟られぬよう、彼はただ、瞳を強く閉じた。