闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 一見すると整然とした記録。だが、そこに記された名前と数値が、脳裏にかすかに残っていた噂と重なった。特定の女官や宦官の異動、不自然な物資の動き。それらが示すものは、決して偶然ではない。

「将軍。(しょう)()様の宮に、事件のわずか三日前、太后宮から十名もの宮女が一度に送り込まれていますね」

 屈強なはずの(しょう)将軍の顔が、見る間に青白くなった。

「……太后様が、(しょう)()様に懐妊の兆しが見られるとおっしゃられたそうです。人が必要だろう、と。漢方も多量に賜ったそうです……」

(しょう)()様は、ご懐妊を?」

「王宮でもごく一部の者しか知り得ぬことでした。慎重な(しょう)()様は、身を守るため、漢方を丁重にお断りになられました。それが……すべて太后様の計算通りだったのです」

 将軍は卓を握りしめ、白くなった拳を震わせる。

「大王には、こう伝わりました。『(しょう)()様が、太后様から賜った漢方を毒だと言って突き返した』と」

「それで(しょう)()様は」

「禁足を命じられました。ですが、ご懐妊の身。お子を守りたい一心で現状を訴えられ……それが決定打でした。大王の目に、『傲慢な言い逃れ』と映ったのです」

 将軍は顔を下げ、絶望に身を震わせている。

「崔夫人、真実が見えたところで、何にもなり得ません。王の命令であるという公印がある以上、これ以上の追及は……」

「……王が怒り狂うよう仕向ける。この国で全てを動かしているのは、背後に潜む闇なのですね」

「私から伝えられることは、ここまでです」

「……ご無理を申し上げ、失礼いたしました」

 玉蓮は、自らの胸元にある紫水晶を強く握りしめた。太后(たいこう)という絶対的な権力が、この国の全てを動かしているのだ。