「玉蓮。私が言いたいことは理解していると思うが……」

ぴくりと玉蓮の肩が動いた。脳裏には昼間の己の行いが蘇る。

「お前が磨く才は、国のため、民のため、そして己の正義のために振るわれるべきだ。決して、無辜(むこ)の民を蹂躙(じゅうりん)する道具であってはならぬぞ」

「……はい」

玉蓮は、ただ、そう答えることしかできなかった。

「私的な感情で力を振るってはならぬ。それは、ただの暴力だ。お前のその小さな拳では、まだ何も守れはしないのだから」

劉義の視線が玉蓮の固く握られた拳と、伏せた顔に突き刺さり、さらに身体を固くする。

「申し訳ありません」と言わなければならないとわかっていても、それを口にすることがどうしてもできない。

下唇を噛み締めていると、目の前の瞳が、ふと、玉蓮を通り越して、どこか遠くを見るような色を帯びた。その目に映るのは、ここにいない誰かの影。

玉蓮は、思わず息を殺して、その視線の先にあるはずの幻影を探った。

「先生?」

「……お前のその才は本物だ。だがな、才というものは時に持ち主を、そして周りの人間をも破滅させる諸刃(もろは)の剣にもなる。力と憎しみが分かち難く結びついた時、人は道を誤るのだ」

「……道」

「玉蓮、かの赫燕(かくえん)将軍を知っているか?」

その名が口にされた瞬間、玉蓮の心臓が、一拍、強く脈打つ。