闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 そして、その場は(しょう)将軍と玉蓮だけとなり、風の音だけが重い空気に似合わずそよぐ。

「……(さい)夫人、人払いしてまで、お話しされたいこととは?」

「将軍、この度の(しょう)()様のこと、お父君も、将軍も心痛(しんつう)いかばかりかと存じます。実は、わたくしの姉も後宮に入って半月後に亡くなっているのです」

 玉蓮は胸元を押さえ、息を吸い込んだ。言葉にしようとしたものが、熱と共に喉奥に絡んで出てこない。唇は動いたが、小さな吐息がこぼれるばかりだった。もう一度、小さく息を吐く。

「……大王が太子の頃です。(しょう)()様の痛みが、わたくしには、他人事に思えないのです」

「……(さい)夫人」

「わたくしは、姉の最期に何があったのか、真実を知りたいのです。本日も、何か手がかりがあればと思い、こちらに参りました」

「崔瑾様の夫人といえど、あなたは敵国・白楊(はくよう)国の公主です。私に何を信じろと……」

「将軍。妹君、(しょう)()様の一件、王の気まぐれなどではないでしょう……ここ数年の記録を見れば、ある名が浮かびます」

 (しょう)将軍の眉がわずかに跳ねた。

「なぜ、それを」

「……異国から嫁いだばかりのわたくしにさえ、この国の異様さは手に取るようにわかります」

 沈黙が二人の間に落ちる。

(しょう)()様は、今回、命拾いをなされました。しかし、次に何かがあったとき、果たして助けられるでしょうか。あるいは、(しょう)()様のお食事に、ほんの僅か、見慣れぬ薬草が混ぜられていたとして、誰がそれに気づけましょうか」

「それは!」

「……確実に言えることは、(しょう)()様はお命を狙われたということです」

 玉蓮の言葉に、(しょう)将軍は視線を彷徨わせた。右に、左にと忙しなく動く瞳と、額を伝う汗。そして、卓の上で握りしめられた拳が白くなっていく。

「……(しょう)()様は、あの気難しい王の寵愛を受けていました。ですが突如……」

 ぽつりと、彼の唇から言葉がこぼれる。

「……王の怒りに触れたというのが表向きの理由です……」

 声が小さく震えている。王の怒りという名目で片付けられるには、あまりにも裏が深すぎる。父である蕭尚書までも連行されたとなれば、何かが起こっている。

 (しょう)将軍の手が、引き出しの取っ手に伸ばされたが、そこにかかったまま動かない。眼差しは揺れ、何かを飲み込むように喉が上下した。やがて、指先に微かに力が入ったかと思うと、彼は小さな引き出しから帳簿を取り出した。

「これが、(しょう)()様と関係がある記録の写しです」

 彼は目を伏せ、震える手で帳簿を差し出した。

 玉蓮は写しを受け取り、紙をめくった。指先が走るように書き込みを追う。