闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇ 崔瑾 ◇◇◇

 その緊迫したやり取りの中、ふふ、と喉を鳴らす湿った音が崔瑾(さいきん)の鼓膜を震わせた。太后が口元を扇で隠しながらも、愉しげに肩を揺らしていた。

「『英雄の魂を焼きつくすしてなお、皆が競ってその炎に飛び込むこと、飛蛾(ひが)のごとし』とは、よく言ったものだ。そなたを手に入れるために、皆が躍起になっておる」

 一瞬、後ろにいる玉蓮に視線を向ければ、ただ静かに何も映していないかのような瞳で虚空(きょくう)を見ていた。その姿にじくりと胸が(きし)む。

「太后様、どうか、お聞き届けいただきたいのです。刺客を大王様の寝所に招き入れることと同義にございます。後宮に入れてはなりませぬ」

 己の喉から、ごくりと音がする。汗が一筋、頬を伝っていく。

「……だが、公主は大王の後宮に贈られてきたのだ。まごうことなき妃としてな。それを辞めると言うなら、それ相応の、誰もが納得するような言い訳を白楊に伝えねばならぬ。どうするつもりだ、大都督(だいととく)・崔瑾よ」

「太后様のおっしゃる通りであるぞ、崔瑾殿。王が娶るべき姫君を、一体どうするというのだ。この件は、そなたの一存で決められることではない」

 周礼の声が、蛇の舌のようにその場に滑り込んでくる。彼の冷ややかな視線は、崔瑾を射抜くように向けられ、場の空気は一層重苦しくなる。