闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

「お前は、本気で私のものを横から奪う気か」

 王の声が、それまでの愉しげな響きを失い、地を這うような低さを帯びた。

「この姫はなりませぬ。大王様に危険が及ぶ者を後宮に入れることは、臣下として反対いたします」

「我が後宮に入れるために贈られたのだぞ」

「申し上げましたとおり、この姫は、白楊(はくよう)国の将でもあったのです。『その武は鬼神(きじん)の如し』。この姫の初陣(ういじん)で、我が国に入った報告です。剛将(ごうしょう)さえも、この者に首を取られたのです」

「ならば、すべてを()がして寄越せ。裸のままで、我が手の中に落ちてくるがいい。それでもきっと……そなたは極上に美しいのだろうな、玉蓮」

 王の瞳は、血が走るような光を宿している。その狂気に満ちた視線を浴びて、玉蓮は再び、懐に手を置く。その先にある鋼の冷たさこそが、今や彼女の腹の底に灯る、唯一の炎だった。冷たい、しかし確固たる意志を宿した瞳で見上げた玉蓮に、王は、恍惚(こうこつ)とした表情で、唇の端を醜く吊り上げる。

「まさに、霜輝(そうき)凜冽(りんれつ)。血に浮かぶ白菊のようだ」

 たまらぬとでも言いたげに、王は舌で自身の唇をゆっくりと舐めた。その姿は、理性など微塵(みじん)も感じさせない、欲望に溺れる獣そのもの。玉蓮は、冷徹な視線を崩すことなく前を見据える。