闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇ 玉蓮(ぎょくれん) ◇◇◇

 蕭家(しょうけ)を襲ったあの嵐の夜から、季節が足早に過ぎ去り、初夏の気配が忍び寄る頃。崔瑾は節度ある距離を保ち、玉蓮に過度な干渉をせず、屋敷の者たちも、温かく、礼を尽くしてくれる。

 そんな中で、玉蓮の心は、穏やかという言葉とは程遠く、静けさが、猛毒のように心を(むしば)んでいく。赫燕(かくえん)の元にいた頃は、常に、次の戦、次の勝利だけを考えて進めば良かったのに、この穏やかな日々は、思考する時間を与えすぎる。姉の最期を、何度も、何度も、頭の中で描いてしまうのだ。

 あの夜、赫燕と交わした言葉が、脳裏に焼き付いて離れない。

『——要を壊せ』

 道は、今もなお続いている。(かたき)(ふところ)近くに入れたのだから、その道は、より太くなっているはず。だが、やはり一国の王。顔を合わせる機もなければ、それが訪れる兆候すら見えない。

 夜更け、侍女を全て下がらせた居室で、玉蓮は独り、盤に石を並べていた。

(後宮に入っていれば、近づけていた——?)

 ふと、そんな考えが脳裏をよぎったが、玉蓮はすぐに首を横に振る。もしもあの時、あのまま後宮に入っていたならば、王の玩具として弄ばれ、すぐに首を落とされていたことだろう。おそらく、懐に忍ばせた匕首を抜く間もなく。

(では、どう近づく? どう攻める? 要を壊すには——要?)

 玉蓮の脳裏で、輿入れの記憶が鮮明によみがえる。あの時、王が見せた欲深く血の走った瞳は、人間を人間とも思っていない、まさしく絶対者のそれ。妃の一人や二人、殺めることに何の躊躇もないだろうことは、容易に想像できる。

 玉蓮は黒い石をそっと盤に置いた。静寂な部屋に、かちりと乾いた音が響く。だが、胸がさざ波を立てていく。本当の仇はどこにあるのか、と。

 王の決断は、いつも誰かの言葉をなぞっている。そして、逆らえる力さえその手にしていない。

(なぞらせているのは——誰だ?)

 誰が、王を操っているのか。誰が、この国を意のままに動かしているのか。王を討つには、何を壊せばいいか。玉蓮は、盤上にある、敵の王に見立てた一つの要石を、じっと見つめた。その石の周りは、他の黒石が、鉄壁の守りとして固まっている。

(この王を直接狙っても、届かない。ならば——)

 彼女の指が盤上を滑り、その奥深くに鎮座する黒石から、少し離れた場所にある穴に白石を、ぱちりと打った。その一手で、黒石が二つ取り除かれ、盤全体の黒石の流れが澱み、空気が、動く。

「二人……か?」

 王を、王として成り立たせている、その要の石。

(情報がいる)

 玉蓮は、最後の白石を置くと、そっと居室を抜け出し、崔瑾の屋敷の一角にある書庫へと足を向けた。