闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 そこに一歩進み出てきたのは、銀糸(ぎんし)緋衣(ひい)を纏った老宦官(かんがん)だった。袖口から伽羅(きゃら)がかすかに漂う。手を差し伸べたその時。

「お待ちいただきたい」

 崔瑾(さいきん)は、(ふところ)からおもむろに印綬(いんじゅ)を取り出した。紫の組紐(くみひも)が揺れ、現れたのは、青銅の印。方形(ほうけい)のその上には、つまみとして、砂漠を行く駱駝(らくだ)鎮座(ちんざ)している。

 崔瑾がそれを掲げると、印面に刻まれた「大都督(だいととく)之印」の五文字が、彼の権威を静かに、しかし、絶対的に示した。周礼が甘ったるい笑みを浮かべて、崔瑾の前に進み出る。

大都督(だいととく)、崔瑾殿。これは一体……白楊(はくよう)国の使節団と大王様へ嫁がれる姫君をお引き止めになるとは、どのようなお考えか」

 周礼の声は、まるで蜜のように甘く、しかし、その言葉の端々には、崔瑾の真意を探るような、ねっとりとした響きが混じっている。

「聞けば、公主は、大都督(だいととく)劉義(りゅうぎ)殿の学び舎にその身を置き、武芸にも通じていると。赫燕(かくえん)軍にて敵を撫で切りにしたその実力は疑うことなきもの。危険を(はら)む姫君を無防備に後宮へ入れることは、公主ご自身の身の安全、そして何より、王の安寧を脅かすことにも繋がりかねませぬ」

 崔瑾(さいきん)は、そこで一度言葉を切った。