闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇ 崔瑾(さいきん) ◇◇◇

 王宮の内庭で、崔瑾(さいきん)は、白楊(はくよう)国の使節団が到着するのを、静かに待っていた。隣に立つ周礼から漂ってくる、甘ったるい香の匂いが、鼻をつく。まるで、熟れすぎて腐る寸前の果実のような、不快な香り。その香りの主は、粘つくような笑みを浮かべている。これから現れる《《進物》》を、品定めする目だ。

 やがて馬車が到着し、使者の手がその扉にかかった。


白楊(はくよう)国公主、玉蓮様ご到着にございます」


 最初に現れたのは、血のように鮮烈な赤。その絹の衣を(まと)い、現れた女の姿に、思わず崔瑾(さいきん)は息を呑んだ。雪で出来た人形のように、一切の感情を映さない白い顔。

「ほお、これは……」

 周礼の口から、感嘆の声が漏れた。その瞳の奥には、極上の獲物を見つけたかのような、下劣な光が、爛々(らんらん)と輝いているのが見てとれる。

「……月貌(げつぼう)の華、か。なるほど、なるほど。これは噂に違わず。これを後宮におさめねばならんのは、少々惜しいな」

 その隣に立つ崔瑾(さいきん)は、ただ静かに彼女を見つめていた。わずかに引き結ばれた唇の端。袖の中で、おそらくは固く握りしめられているであろう指先の、微かな震え。そして何より、虚ろに見える瞳の奥、その一点にだけ、まるで消えない熾火(おきび)のように宿る、(くら)い光。

 初めて出会った日と同じように、凛として(またた)く純粋な光。その二つが、薄氷の上で舞う炎のように、危うい均衡を保っている。ここにいる男たちの視線を一身に浴びながらも、玉蓮はただその瞳で正面の王宮の楼閣(ろうかく)を見上げている。

(ここで、この光を、喰わせてはならない)