◇◇◇
馬車の轍が刻まれるたびに、微かな砂埃が上がる。硬い座席から伝わる、規則正しい振動。車輪が石を弾く、乾いた音。その全てが、まるで、自分ではない、誰か別の人間が体験している出来事のように、どこか遠く、他人事のように感じられる。
窓の布を少し上げて、外の景色に目を向ける。御者が言うには、この辺りは、呂北の西に位置する市場らしい。視界に飛び込んできたのは、果物を売る露店の前で、小さな女の子が、父親に何かを強請っている姿だった。父親は困ったように笑いながら、結局一つだけ、と赤い果実を娘の手に握らせる。娘が、満面の笑みを浮かべた。
鄒許と何も変わらない、ありふれた親子の光景。玉蓮の喉奥が、ひとりでに鳴る。胸の奥にあったはずの敵意が、霧のように輪郭を失っていく。布を下し、再び深く座り直すと、先ほどまで外から聞こえていた子供達の無邪気な歌声が、よりはっきりと耳に届くようになった。
「北の王様どこ行った
首なくなって灰になり
紫の石が泣いている
北の王子はどこ行った
燃えるお城で灰になり
紫の石が泣いている」
いつだって童歌には残酷さが残っている。戦乱の世ともなれば、なおさらだ。
——紫の石。それを耳にした瞬間、手が勝手に石を探り、無意識に握り締める。胸元の水晶が脈打つ。同時に、懐の匕首が、生き物のように熱を持った。歌声は、遠くへ消えていくのに、その残響が、耳の奥でいつまでも鳴っている。
馬車は、ただゆっくりと進む。そして、開かれた呂北の|西側城門の巨大な門の下を重い音を立てながらくぐっていった。
馬車の轍が刻まれるたびに、微かな砂埃が上がる。硬い座席から伝わる、規則正しい振動。車輪が石を弾く、乾いた音。その全てが、まるで、自分ではない、誰か別の人間が体験している出来事のように、どこか遠く、他人事のように感じられる。
窓の布を少し上げて、外の景色に目を向ける。御者が言うには、この辺りは、呂北の西に位置する市場らしい。視界に飛び込んできたのは、果物を売る露店の前で、小さな女の子が、父親に何かを強請っている姿だった。父親は困ったように笑いながら、結局一つだけ、と赤い果実を娘の手に握らせる。娘が、満面の笑みを浮かべた。
鄒許と何も変わらない、ありふれた親子の光景。玉蓮の喉奥が、ひとりでに鳴る。胸の奥にあったはずの敵意が、霧のように輪郭を失っていく。布を下し、再び深く座り直すと、先ほどまで外から聞こえていた子供達の無邪気な歌声が、よりはっきりと耳に届くようになった。
「北の王様どこ行った
首なくなって灰になり
紫の石が泣いている
北の王子はどこ行った
燃えるお城で灰になり
紫の石が泣いている」
いつだって童歌には残酷さが残っている。戦乱の世ともなれば、なおさらだ。
——紫の石。それを耳にした瞬間、手が勝手に石を探り、無意識に握り締める。胸元の水晶が脈打つ。同時に、懐の匕首が、生き物のように熱を持った。歌声は、遠くへ消えていくのに、その残響が、耳の奥でいつまでも鳴っている。
馬車は、ただゆっくりと進む。そして、開かれた呂北の|西側城門の巨大な門の下を重い音を立てながらくぐっていった。

