闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇ 崔瑾(さいきん) ◇◇◇

 朝議(ちょうぎ)の間へと続く長い回廊を、崔瑾(さいきん)は一歩一歩、確かな足取りで進んでいた。

 昨夜、蕭将軍が雨の中を駆け込んできたその直後、阿扇が青い顔で戻ってきた。

(しょう)尚書が、周礼の手の者に連行されました。……これを、私に託して』

 渡されたのは、走り書きの紙片(しへん)(しょう)尚書が捕まる直前に、命懸けで蔵から引き出した記録の断片だった。

 二十年前のあの日、王后宮(おうこうきゅう)から運び出された荷車は、北厳寺(ほくがんじ)へは向かっていない。向かった先は、霜牙(そうが)の大地の外れ。死体や瓦礫を捨てる、河伯の祠(かはくのほこら)近くの乱葬崗《らんそうこう》……無縁墓地だ。

(叔母上が……崔王后がそのような場所へ——なんということだ)

 崔瑾は奥歯を思い切り食いしばった。

 ようやく「捨てられた真実」の場所を突き止めた。だが、代わりに崔瑾の蕭尚書の家庭を壊し、その娘を地獄へ叩き落とした。

 だが、代償はそれだけではなかった。

 追いかけていた人間が次々と「病」、「転任」とされ姿を消していく。

(——向こうが先に手を打っている)

 蕭尚書を動かした瞬間に、太后という蜘蛛は、こちらの狙いをすべて察知したのだ。王后殺害の件で直接本丸を攻めれば、今度はどこまで影響が及ぶことか。

(……ならば、先に『手足』を断つ。あの女の権力の源泉……周礼(しゅうれい)の一族。まずは、そちらからだ)

 (ふところ)に手を入れ、証拠の束に触れる。その感触が、胸の奥の熱を(あお)る。崔瑾は顔を上げ、眼前に広がる玉座の間へと歩みを進めた。