闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇


 輿入れの日。玉蓮は、送り届けられた豪華(ごうか)絢爛(けんらん)な衣を身に(まと)っていた。幾重(いくえ)にも重ねられた、血のように赤い絹の衣が、ずしりと重い。肌に触れるその感触は、柔らかいはずなのに、なぜか、冷たい鎖のよう。鏡に映る自分の姿は、死地へと送られる、ただの人形だった。


 玄済(げんさい)国へ出発する、その直前。彼女の前で、一室の扉が、師である劉義(りゅうぎ)の言葉とともに静かに開かれた。

「——最後に、古巣の者たちと挨拶を交わすことぐらい、許されるだろう」

 視線の先、部屋の中には、大連合軍を退けた戦功に対する褒賞(ほうしょう)のために、雛許(すうきょ)に呼び出されていた、赫燕(かくえん)とその幹部たちがいた。彼らは、これから玉蓮が向かう国の兵士たちを、誰よりも多く(ほふ)った男たち。その男たちが今、彼女の最後の別れの相手として、そこにいた。

 劉義が部屋の奥にいる男に視線を投げ、呼びかける。

赫燕(かくえん)……」

 だが、相手は答えない。

「最後の(とき)だ」

 劉義を見上げれば、微笑みと頷きが返される。玉蓮はその部屋の中に進んだ。



 膝を曲げ、礼をする。(かんざし)の飾りがぶつかって、高い微かな音が溢れた。

「皆様方には、これまで過分(かぶん)なるご厚情を(たまわ)りましたこと、(あつ)く御礼申し上げます。 わたくし、玉蓮は、これより玄済(げんせい)国へ、嫁ぎ参ります」