闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。



 書斎に入り、重厚な木の香りに包まれながら卓へと向かった。静かに椅子を引き、腰を下ろすと、傍らに立つ阿扇に柔らかく頷く。

「では、報告を聞きましょうか」

 崔瑾の声が書斎に響くと、彼は一歩、さらに近くへと距離を詰める。

「は。まず、当時崔王后(さいおうこう)宮に運び込まれた香についてです。……入手経路を徹底的に調査しましたが、結果は『潔白』でした」

「潔白、ですか」

「はい。南海(なんかい)の交易商から正規の手続きで納入されています。最高級品です。毒性はおろか、不審な点は何一つございません。香炉は太后様が持ち込まれたものですが、香と同様に問題なしとした太医局の記録に改竄(かいざん)の跡は見られません」

 崔瑾は、組んだ指に顎を乗せた。

「……なるほど。香も香炉も問題なし、ですか」

「は。ですが、北厳寺(ほくがんじ)への寄進については、崔瑾様のご懸念の通りでした。寄進額は、もはや供養と呼べるものではありません。……そして、もう一つ。当時の人事に関する()の印影、これに不可解な『傷』がございます」

 阿扇が印影の(たく)を差し出す。崔瑾はそれを手に取り、灯りにかざす。そこに浮かび上がったのは、本当に微かに、しかし確かに存在する、歪な形。

「……確かに、欠けていますね」

「はい。現在の()は、火災が起こる前年の春に生じた欠けがございます。ですが、火災前後に発布された辞令。その印影には『欠け』はございませんでした。つまり——」

「……複製の()を使った、と。口封じの人事のために、そこまで周到に準備をしていたのか。確かに、そこから周礼の出世は始まっている——」

 崔瑾は冷めた目で拓を見つめた。証拠としては十分だ。だが、何かが指先に引っかかる。

(——簡単すぎる)

 太后が、これほど見つけやすい綻びを放置するだろうか。

(……いや、違う。これは、(おとり)だ)

 これは、追っ手の目を『手続き上の不正』に向けさせ、本丸の罪——『王后殺害』から目をそらせるための蜘蛛の糸ではないのか。

「阿扇。この印影の件は一旦預かります。……おそらく、本命は別にある」

「は、仰せの通りです。太医(たいい)局の診簿(しんぼ)、および火災の公式記録ですが、王宮の書庫にはございませんでした」

「失われたのですか」

「いえ、周礼殿の進言により、『王后宮の(けが)れを新王都に持ち込むべからず』と、旧王都の盛楽にとどめられております」