闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。



 玉蓮と盤を挟んでいた崔瑾(さいきん)の元に、阿扇(あせん)が訪れた。

「崔瑾様」

 阿扇(あせん)は、音もなく頭を下げる。

「阿扇、あなたも打ちますか? 玉蓮殿の手はとても面白いのですよ」

 玉蓮は、扇で口元を隠しつつも、柔和に微笑(ほほえ)んでいる。

「崔瑾殿は、先ほどからわたくしの手を(かわ)してばかり。わたくしでは、勝つのは難しそうです。阿扇、あなたが代わりに——」

「結構です」

 玉蓮の言葉を遮るように、阿扇はきっぱりと言い放った。崔瑾が玉蓮に視線を向けるが、そこにはふわりと微笑(ほほえ)む美しい顔があるだけ。

「ご報告がございます」

 彼の緑がかった瞳は、崔瑾一人に注がれている。崔瑾は、軽く頷き、盤に視線を落とした。

「では、書斎に場所を移しましょう。玉蓮殿、しばし失礼いたします」

 そう言って立ち上がると、阿扇は一歩下がって後に続いた。

 書斎に向かう回廊(かいろう)の途中、周囲に人影がないことを確認して崔瑾は口をひらく。

「阿扇、玉蓮殿は嫁いできたばかりです。もう少し柔らかく接することはできませんか」

「……あの姫は白楊(はくよう)国の者。何を考えているかわかりません。私は、崔瑾様を守らねばなりませんから」

 その返答は、いつにも増して硬い。(かたく)なな側近の言葉に、わざとらしくため息をついて見せた。

「それは、困りましたね。阿扇には玉蓮殿を守って欲しかったのですが」

「……あの姫の歩く音からは、凄まじい武の匂いがいたします。私など不要でしょう」

 低く、拗ねた子供のような響きに、崔瑾はとうとう笑い声をあげる。

(武の匂い、か)

 あの姫が、ただの可憐な花ではないことを、阿扇は見抜いているのだろう。だからこそ、これほどまでに頑なになる。

「……もし、私に何かあれば、北の門を抜けるように。あなたに託します」

「『託す』は撤回願います。私は、最後まで崔瑾様をお守りいたします」

 阿扇は即座に反論したが、崔瑾は答えることなく微笑(ほほえ)んだ。