◆
玉蓮と盤を挟んでいた崔瑾の元に、阿扇が訪れた。
「崔瑾様」
阿扇は、音もなく頭を下げる。
「阿扇、あなたも打ちますか? 玉蓮殿の手はとても面白いのですよ」
玉蓮は、扇で口元を隠しつつも、柔和に微笑んでいる。
「崔瑾殿は、先ほどからわたくしの手を躱してばかり。わたくしでは、勝つのは難しそうです。阿扇、あなたが代わりに——」
「結構です」
玉蓮の言葉を遮るように、阿扇はきっぱりと言い放った。崔瑾が玉蓮に視線を向けるが、そこにはふわりと微笑む美しい顔があるだけ。
「ご報告がございます」
彼の緑がかった瞳は、崔瑾一人に注がれている。崔瑾は、軽く頷き、盤に視線を落とした。
「では、書斎に場所を移しましょう。玉蓮殿、しばし失礼いたします」
そう言って立ち上がると、阿扇は一歩下がって後に続いた。
書斎に向かう回廊の途中、周囲に人影がないことを確認して崔瑾は口をひらく。
「阿扇、玉蓮殿は嫁いできたばかりです。もう少し柔らかく接することはできませんか」
「……あの姫は白楊国の者。何を考えているかわかりません。私は、崔瑾様を守らねばなりませんから」
その返答は、いつにも増して硬い。頑なな側近の言葉に、わざとらしくため息をついて見せた。
「それは、困りましたね。阿扇には玉蓮殿を守って欲しかったのですが」
「……あの姫の歩く音からは、凄まじい武の匂いがいたします。私など不要でしょう」
低く、拗ねた子供のような響きに、崔瑾はとうとう笑い声をあげる。
(武の匂い、か)
あの姫が、ただの可憐な花ではないことを、阿扇は見抜いているのだろう。だからこそ、これほどまでに頑なになる。
「……もし、私に何かあれば、北の門を抜けるように。あなたに託します」
「『託す』は撤回願います。私は、最後まで崔瑾様をお守りいたします」
阿扇は即座に反論したが、崔瑾は答えることなく微笑んだ。
玉蓮と盤を挟んでいた崔瑾の元に、阿扇が訪れた。
「崔瑾様」
阿扇は、音もなく頭を下げる。
「阿扇、あなたも打ちますか? 玉蓮殿の手はとても面白いのですよ」
玉蓮は、扇で口元を隠しつつも、柔和に微笑んでいる。
「崔瑾殿は、先ほどからわたくしの手を躱してばかり。わたくしでは、勝つのは難しそうです。阿扇、あなたが代わりに——」
「結構です」
玉蓮の言葉を遮るように、阿扇はきっぱりと言い放った。崔瑾が玉蓮に視線を向けるが、そこにはふわりと微笑む美しい顔があるだけ。
「ご報告がございます」
彼の緑がかった瞳は、崔瑾一人に注がれている。崔瑾は、軽く頷き、盤に視線を落とした。
「では、書斎に場所を移しましょう。玉蓮殿、しばし失礼いたします」
そう言って立ち上がると、阿扇は一歩下がって後に続いた。
書斎に向かう回廊の途中、周囲に人影がないことを確認して崔瑾は口をひらく。
「阿扇、玉蓮殿は嫁いできたばかりです。もう少し柔らかく接することはできませんか」
「……あの姫は白楊国の者。何を考えているかわかりません。私は、崔瑾様を守らねばなりませんから」
その返答は、いつにも増して硬い。頑なな側近の言葉に、わざとらしくため息をついて見せた。
「それは、困りましたね。阿扇には玉蓮殿を守って欲しかったのですが」
「……あの姫の歩く音からは、凄まじい武の匂いがいたします。私など不要でしょう」
低く、拗ねた子供のような響きに、崔瑾はとうとう笑い声をあげる。
(武の匂い、か)
あの姫が、ただの可憐な花ではないことを、阿扇は見抜いているのだろう。だからこそ、これほどまでに頑なになる。
「……もし、私に何かあれば、北の門を抜けるように。あなたに託します」
「『託す』は撤回願います。私は、最後まで崔瑾様をお守りいたします」
阿扇は即座に反論したが、崔瑾は答えることなく微笑んだ。

