闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 崔瑾は、一瞬言葉を選んだ。彼女の碁は、確かに独特だった。

「その美しさと裏腹に、時に無謀でありながら、奇策に富み、それでいて真っ直ぐです。苛烈(かれつ)なまでに」

 その予測不可能な展開は、まるで静寂を破る雷鳴、あるいは静かな湖面に突如として現れる波紋のようだった。常識を覆すような奇抜な手筋で相手を翻弄(ほんろう)し、最終的には勝利への最短の道を真っ直ぐに突き進む。

「ふふ、崔瑾殿は、本当によく見ていらっしゃいますね」

 その涼やかな笑い声は、空気をさらに和らげる。胸に温かい波が広がる。この静かで満ち足りた時間。この平穏が永遠に続けば良い、と。この時、彼は確かにそう願ってしまったのだ。


 だが、その願いは、次の瞬間に儚く揺らぐ。玉蓮の視線が、ふと、盤上から窓の外へ——遠い、西の空へと向けられたからだ。

 その美しい横顔には、これまで一度も見たことのない、深く物憂(ものう)げな色が差す。まるで、魂だけがここではないどこかへ飛んで行ってしまったかのような、そんな表情。

 その瞳が、自分ではない何かを映している。それだけで、胸の内が、ひりつくように焼けた。


(——憐憫(れんびん)だ。故郷を思う、か弱き姫への)


 そう、言い聞かせなければ、己の中で、名も知らぬ獣が暴れ出しそうだった。崔瑾は、その獣を檻に押し込めるように、玉蓮から視線を逸らし、同じように西の空を見上げた。