赫燕の力強く、しかし規則的な鼓動に身を委ねる。どこまでが自分の肌で、どこからが彼の肌なのか。その境界線が、彼の熱にじわりと溶かされていくようだった。彼の心の臓の音が、自分自身の命の律動になっていく。外界のあらゆる喧騒が遠ざかり、世界の全てが、この腕の中にある一つの鼓動と、一つの温もりだけになっていく。
玉蓮は、微睡むように目を閉じた。
「……睦まじいということは、誠に美しいことですね」
いつの間に入り込んできていたのか、子睿の声が玉蓮の耳に届いた。入り口の方を見れば、そこには子睿と朱飛がいた。驚いて赫燕の腕から飛び降りようとする玉蓮を、力強い腕が押さえる。
「入れとは言ってねえ」
赫燕の不機嫌そうな声に、子睿は臆することなく応える。
「私たちが来ていることに気づいても、やめなかったのはお頭でしょう? まったく、いつまで待たされるのかと」
自分たちに向けられる視線に、玉蓮の頬が熱を持ったように火照る。
「お頭、もう傷は大丈夫そうっすね。元気そうで何よりです」
朱飛が口元に、普段の彼からは想像もつかないような、からかうような笑みを浮かべて、そう続けた。
「朱飛、嫌味なら通じねえぞ」
赫燕はそう言い放っが、その声は、戦場で聞くような、全てを切り捨てる刃の鋭さを持っていない。それはまるで、じゃれ合う獣が牙を隠して甘噛みするかのような響き。玉蓮は、そんな彼らのやり取りを微笑ましく見つめながら、まだ頬に残る赫燕の温もりをそっと確かめていた。

