闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 唇が離れて、再びその瞳を間近で見つめる。獣のように獰猛(どうもう)にも見えるが、一方でどこまでも深く優しく見える。赫燕の熱く硬い胸にそっと頬を寄せれば、力強い心臓の鼓動が骨を伝って玉蓮の全身を震わせた。


——とくん、とくん、と。


 それは、紛れもない彼の(せい)の音。その音に誘われるように目をゆっくりと閉じれば、たちまちに彼の肌から立ち上る香りに包まれる。玉蓮の指が、彼の背に、ふ、と伸びる。その下にあるのは、まだ癒えきらぬ傷痕。幾重(いくえ)にも重なった布越しに伝わる体温は、生々しく、確かに熱を持っている。

 生きている。あの日、自分のために血を流し、倒れたこの男が、今こうして生きている——。玉蓮の頬に、熱がじんわりと広がっていく。

「……お前は、それが好きだな」

 玉蓮の髪を指に絡めながら、少しだけ不思議そうな、また少しだけ諦めたような声で赫燕が呟くから、玉蓮は、ふふと笑みを溢してしまう。

「あなたの、心の臓の音を聞いているのです」

 今度は赫燕が、ふ、と短く息を漏らすように笑った。

「悪趣味なやつだ。俺が生きているか確かめているのか」

 悪態をつくような言葉とは裏腹に、その腕は玉蓮をさらに深く抱き寄せた。彼の首元で、静かにゆらめく紫水晶の飾りが、玉蓮の額にひんやりと冷たく触れる。その瞬間、玉蓮は同じように確かな重みを持つ、もう一つの石の存在を確かめるように胸元に手をやった。対をなす紫水晶。