闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

「……一体、何を狙っている?」

「臣下として、当然に王家の安泰を願っております」

二心(ふたごころ)はないと誓えような」

 太后(たいこう)の瞳が細められる。その目は、人の心の底を見透かすかのような冷徹さを湛えている。

「無論にございます。この婚姻に、もし万が一、王家に対する不遜な意図や、私的な野心が隠されていたなら、この崔瑾、命をもって償う所存です」

 頭を深く垂れたまま、淀みなく述べた。

大都督(だいととく)の正室か……」

 太后(たいこう)は独り言のように呟き、再び妖艶に微笑(ほほえ)んだ。

「それも良い。そなたの覚悟、しかと見届けさせてもらった。では、公主の安全をそなたに託す。くれぐれも抜かりなきようにな」

(——通った!)

 悟られるな、そう思いながらも、前で重ねた拳に力が入る。安堵の息が漏れそうになるのを袖で隠して素早く飲み込んだ。

「ありがたく。私の首にかけて、公主をお守りするとともに、王に危険が及ばぬように管理いたします。必ずやその責を全ういたします」

 頭を下げた崔瑾の上で、唸るような声が聞こえた。

「母上——!」

 王の叫びが太后(たいこう)の言葉を遮るように発せられた、その瞬間乾いた音が響き渡った。

 太后(たいこう)の手に握られていた扇が、王の目の前で鋭く閉じられている。その視線は氷のように冷たく、王を射抜かんばかりに向けられている。王は全身を震わせ、顔を真っ赤にして、太后(たいこう)を見つめ返している。

「……崔瑾殿は我が国の英雄。英雄には、英雄に相応しい華がありましょう」

「ですが!」

「——大王」

「っ——」

「王とて、時には宝物(ほうもつ)下賜(かし)なさらねばなりませぬ」

 太后(たいこう)は妖しげな笑みを浮かべながら、紅で彩られた唇を歪ませる。そしてその指先が、まるで盤上の石でも打つかのように、とん、と一度だけ扇の親骨を叩いた。

 崔瑾は、手を合わせ、頭を下げた。

(今は、この瞬間を(しの)いだだけ。だが、まず一つ)

 全身から音もなく力が抜け、膝が小刻みに揺れた。止めていた息が、熱を帯びて喉を焼く。その震えを誰にも悟られぬよう、彼は瞳を強く閉じた。