闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 玉蓮は笑いながら、もう一度、匙を口元に戻して息を吹きかけた。唇を当てて温度を確かめると、ずいっと赫燕(かくえん)の前に再び差し出す。

「今度こそ大丈夫です」

「……」

「飲んでくださいね」

 不満そうな顔をしたままの赫燕が、観念したのか、唇を匙に当てて目を閉じた。(さじ)()を持ち上げれば、やがて喉仏が上下に動く。それを何度か繰り返せば、少しだけ潤んだ漆黒の瞳が玉蓮を射抜くから、玉蓮はその鋭さに笑みを深めてしまう。

 脇の卓に置かれた椀と匙が、からんと音をたてた。

「お前が口移しで飲ませれば、一瞬で終わるものを」

 布で口元を拭っていた玉蓮の手を掴んだ赫燕が、これまた不満そうに呟く。

「そんなことをしたら、治るものも治りません」

「褒美がないとやってられねえ」

 赫燕は掴んだ手にぐっと力を込め、玉蓮を自身の元へと引き寄せた。鍛えられた胸の筋肉が隆起し、その熱が薄い衣越しにも伝わる。

「あ、いけません!」

「なんだ」

「傷口が開きます」

 巻かれた布の端をそっと辿る玉蓮の指に、赫燕の手が絡められていく。

「開いてもいい」

「……良く、ありません」

 赫燕(かくえん)に捉えられた手をそのままに、玉蓮はもう片方の手を動かして指先で赫燕の頬に触れる。赫燕の分厚い手のひらが玉蓮の頬を包み引き寄せると、吐息がかかるほどの距離で、二人の視線が絡み合った。